東洋にその名を轟かせた神仙黒天元帥。
その仙宝である石兵玄武盤の力は間違いなく一級品だった。
土を操り、岩を蠢かせ、地に巡る霊脈へと干渉する。
大自然を自在に操る無敵の装備――。
しかし、細かい作業は苦手のようだ。
「…………オハよウ、ございまス、ごすずんさま」
「ぴぃ♪ ゴーレムさん、おしゃべりしたの♪」
「くわっ、ぐわ! ぐわぐわ! ぐわわ?」
「プ♪」
「ワだス、ごすずんさマにつくられダ、ゴーレむのいぃスでス、はい」
「うーむ? なんだろう、なんか思ったのと違うなぁ?」
土色の髪に白い肌。
岩でできた鎧と黒々とした瞳。
人々に親しまれやすいようにと、あえて人型&人と変わらないサイズにしたが――できあがった土の巨人は、なんともとぼけた感じだった。
というか、絶妙な既視感があるな。
「……キャラ被り(レゾンデートル)の危機の気配を察知! マスター、いったいその女は誰ですか!」
「なるほど、ヴィクトリアを意識しすぎたのか」
「失礼な! いくらなんでもここまでポンコツではありません!」
「ポンコツなのは認めるんだな……」
さっと飛び出る仙宝娘。
仲のいいステラを探していたのか、ヴィクトリアが俺たちの下に丁度やってきた。
たしかに、ちょっとキャラが被っている気がするな。
土の巨人(ゴーレム)を造る際に、ヴィクトリアのようにできないか――と考えたのは俺だが、まさか性格まで似てしまうとは。
うーんと悩む俺の前で、イースがおぼつかない足取りでヴィクトリアに近づく。
間の抜けた顔でスンスンと鼻を鳴らすと、彼女は仙宝娘にいきなり抱きついた。
「おなずごれムのにおいがするべェ。なかよくしてくんろ、ワだス、いィすだす」
「同じではありません。私は仙宝娘。貴女と違って、細部まで緻密に設計された機械人形ですし、魂魄も疑似実装されたものではありません。いわば、ゴーレムの上位互換」
「なんほどォ、づまリぃ、イぃすの、おねえさまダんべ」
「ぜんぜん話が通じない! マスター、すぐにこんなのは土に戻すべきです!」
話せば話すほど、ヴィクトリアにそっくりだ。
微妙に話が通じないあたりとか。
すっかりヴィクトリアに懐いたイース。
シルエットこそ人型だが土でできた土の巨人(ゴーレム)の身体は、彼女が仙宝娘に擦り上げるたびにぼろぼろと崩れた。さらに、機械仕掛けの繊細な身体――関節の隙間や、継ぎ目にその崩れた土屑が入り込んでいく。
「あーっ! マスターッ! マスターッ! いますぐこの泥人形を土に返してください! 私の繊細な身体が! 神仙の叡智を詰め込んだボディが!」
「ソんな……いけヅなこド、いわんでくらさいよ、おねエさまァ~!」
「うーん、まあ、イースにも悪気はないみたいだし。許してあげなよ」
「許す許さないの問題ではありません! 私の身体は、埃、水気、静電気は大敵なんですよ! 繊細にできているんです! こんな乱暴に扱われたら……あぁあぁんッ♥♥ は、入ってきます♥ 私の繊細な隙間に、いっぱい……土がぁ♥♥♥」
色っぽい声を上げるヴィクトリア。
とっさに俺はステラの耳を塞いだ。
なにを子供の前で言っているんだ。
というか、そんなに繊細なら子作りも無理なんじゃないか?
俺が呆れている間も、イースはさらに激しくヴィクトリアに身体を擦る。
壊れた振り子時計でも、まだこれよりは大人しいだろうというくらい身体を振り乱した彼女は――気がつけば半分くらいの大きさになっていた。
どうやら身体を擦りつけすぎて摩耗したようだ。
これもまた予想外。
けれどもそれはそうか。
土でできているんだものな……。
「あぁ、ワだすのからだァ、おネえさまのながにはいりこんでぐぅ……!」
「やめてください! 壊れてしまいます! あぁっ、助けてマスター! こんな奴に、私の身体が汚されてしまうだなんて……【Warning: 駆動部に異物が混入しています!】【Warning: 排気口に者が詰まっています!】【Warning: 動作効率30%低下! 異常がないか確認してください!】」
「うーん、流石にこれ以上は止めた方がいいかな?」
石兵玄武盤の力で、イースをヴィクトリアをひっぺがす。
ステラと変わらないサイズになったゴーレムは、それでもなお人肌恋しそうに、仙宝娘を熱っぽい瞳でみつめるのだった。
「あぁ、おねえざま……ワダスのこと、おきらいですがぁ?」
「【Error: 動作効率60%低下! メンテナンスモードに移行します! 担当者は速やかに、動作不良の原因を究明してください!】」