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第69話 ラスティ・ネイルとバッド・カプセラー

「ああ、壱騎いっき……なんということに……」


 さくら館のエントランスで、姫神志乃ひめがみ しのが奥歯をかんでいた。


「志乃さん、どうか落ち着いてください。わたしたちが出ていっても、きっと足手まといになるだけです。ここは彼らを信じましょう」


 龍崎湊りゅうざき みなとが必死になだめる。


 そのころ食堂では――


「息子のこと、気がついているのだろう?」


 刀隠影司とがくし えいじがおもむろに語りかける。


「ええ、心を持たないサイコパス。遥香はるかには感情というものがいっさい存在しない」


 三千院静香さんぜんいん しずかは重い口を開いた。


「似ている、わたしの無痛症と。彼とはもしかしたら、ウマがあうかもね」


「息子を龍影会りゅうえいかいにでも取りこむ腹づもりなのですか?」


「それも面白いかもね。必ずや優秀な戦力になってくれるであろう」


「皮肉なことです。わたしは無力だ、親としても、一個の剣士としても」


「君がそんな愚痴をもらすところなど、見たくはないな。余命が近づいて命が惜しくなったかい?」


「わたしとて人間ですから」


「人間、人間ねえ。ふふっ」


 このように会話を繰り広げた。


 *


「三千院流、一の秘剣・世界」


「こ、これは……!」


 ウツロボーグの角の上から半分、そこがきれいさっぱりと裁断された。


「角に力を持つ者の弱点はやはり角だ。そうだろう?」


 エネルギーを持った気体のようなものが、切り口からどんどんと漏れ出る。


「なっ、なぜだ! ディオティマさまが強化してくださったボディが、たかが日本刀ごときで傷つけられるわけが――」


 ティレシアスが驚いてうろたえる。


「アルトラ、ラスティ・ネイル。僕は物質を空間ごと切り裂くことができる」


 物見の一同も驚愕した。


 剣神と呼ばれる父・三千院静香さんぜんいん しずかに勝るとも劣らない剣技。


 それに加え、おそるべき能力を兼ね備えている。


 しかししかし、このままではウツロが……


 そんなふうに焦っていた。


「大丈夫、ウツロくんを傷つけないよう、慎重にやるから」


 察していた彼がそう告げる。


「おのれ、これでもくらえ!」


 ウツロボーグについている赤い球状のパーツが分離した。


 ビリヤード球のようなそれは、空中を縦横無尽に飛びかい、ターゲットめがけて突進していく。


「ふんっ――」


 三千院遥香さんぜんいん はるかはそのひとつを真っ二つに切り裂いた。


 瞬間――


 赤い球は光を放って大爆発を起こす。


「ふふふ、バカめ! その『ムスッペルの目玉』は着弾点火型の爆弾よ! いきなり出てきた分際で調子に乗った末路だ!」


 煙の中から「彼」が姿を現す。


「ふむ、やはり・・・ね。確認しておいてよかった」


 着物が少しこげついた程度で、三千院遥香は無事だった。


「ほらほら、まだたくさん残っていますよ? これを一気にあなたの上へ――」


「鬼羅」


 北天門院鬼羅ほくてんもんいん きらがガムの風船を作り待っていた。


「ほっほ~い」


「なっ……」


 大量の爆弾がそちらのほうへ吸い寄せられる。


「アルトラ、バッド・カプセラー」


 風船の中へと包みこまれ、パンとはじけた。


「空気を操る能力だね。爆弾も空気がなかったら爆発しないでしょ?」


 彼女はのんきに新しいガムをふくらませている。


「じゃ、ここから反撃開始ってことで」


 少女の顔がキシリとゆがんだ。

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