「わが名はグラウコン。古代ギリシャにおける総合格闘技・パンクラチオンの絶対王者にして、その証たる魔人なり」
魔人・グラウコンはそう名乗ると、そのたくましい両手を広くかざした。
その双眸は獲物に飢えた野獣のように蛮性をたたえている。
「盟友・ディオティマの計略を打ち破るとはなかなかの手並み。ぜひとも手合わせ願いたいもの。まあ、向かってくる勇気があるとすればだが」
彼は眼下のルーキーたちをなめるように値踏みする。
「ディオティマの仲間だってえんなら話は早ぇ。やつはいまどこにいる?」
南柾樹が前に出た。
「さあな。俺もこれから探すところだ」
反射的に口角が上がる。
グラウコンはすぐに興味を持った。
なるほど、データにあった男。
ふむ、情報どおり野性的なようだ。
「そこのティレシアスってやつは? そいつだっておまえらの仲間なんだろ?」
「身内」を手にかけたことを彼は指摘する。
グラウコンは途端に退屈そうな顔をした。
「仲間? それが? 冗談はよせ。俺は腕っぷしのある者にしか興味などない。ディオティマの立場がなければ、とっくに始末していたさ。もっとも、触りたくもないがな、そのような醜い生物など」
「……」
「そんなことよりおまえだ、南柾樹。俺に挑んでくれるのだろう? さあ、見せてみろ、おまえの力をな」
「……そうかい」
彼はそっと、うしろを振り返った。
「
「そんなやつを助けようというのか? 意味がわからないな。実に青臭い、若さゆえか」
南柾樹は唾を吐き捨てる。
「ああ、もう。反吐が出すぎて胃もからになるってもんだ。てめえこそいいかげん下りてきたらどうだ? それとも、好き勝手抜かしといて、タイマン張る根性はねえってか?」
グラウコンは再びニヤリと笑う。
「そう来なくてはな。若さとはすばらしいものだ。どれ――」
魔人はスウっと地上に降り立った。
「さあ、下りてきてやったぞ? 早いところしようではないか、その、タイマンとやらをな」
「いいぜ、来なよ、おじいちゃん?」
「ふっ」
グラウコンのたてがみがフワッと逆立つ。
「――っ!?」
南柾樹が大地にとっ伏した。
「ぐ……!」
ものすごい力で体が地面に押しつけられる。
いや、より正確には、見えない巨大な手につかみ取られ、下のほうへ向かって引っ張られているイメージに取れた。
「プル・ミー・アンダー」
固めた土が割れ、彼の体はついにその中へとめり込んでしまう。
「俺のアルトラは、重力を支配する」
魔人の口角がさらにつり上がった。