――誕生日おめでとう。
――簡単になっちゃうかもしれないけど、お祝いは明日ね。
そんなメッセージを穂波ちゃんに送信して、私はベッドの上にゴロンと横になった。
今日も一日勉強に精を出して、お風呂に入って明日に備えよう……そう考えていたところで、そんな大事なことをふと思い出したのである。
誕生日のことは忘れてたわけじゃないし、プレゼントだってもう用意してある。
ただ明日学校でに渡そうと思っていたので、当日のお祝いについてはうっかりしてしまっていたというわけだ。
別に、当日にお祝いメッセージを送らなきゃいけないって決まりがあるわけでもないだろうけど、穂波ちゃんには何かとお世話になっているし、そういうところはちゃんとしておきたい。
そう時間を置かずに返事が返って来る。
メッセージだけじゃなくて写真つきだった。
――ありがとうございます。
――今、寮で誕生会開いてもらってます。
写真には、まさしく宴もたけなわな寮の食堂の様子がおさめられていた。
民間寮だから寮母さんがいて、基本的に食事の準備とかはしてくれるらしいのだけど、流石に彼女たちにも休みが必要なので土日と祝日は、寮生が自分たちでご飯を用意しているというのは聞いたことがある。
それにかこつけてのパーティーってことか。
寮暮らしのそういう連帯感というか、ある種のフットワークの軽さみたいなのを好むか好まざるかは、人によるかもしれない。
私の場合は……うーん、その日の気分によるかな。
誰かと居たい日もあれば、ほっといて欲しい日もある。
言葉にしてみると我が儘の極みだね。
写真をよくよく見てみてれば、何人か見知った顔が混ざっていた。
へえ、あの子も寮生だったんだ――なんて、三年のこの時期になって新しい発見をしたりしながら、自分がいかに狭い社会の中で高校生活を送って来たのかということを実感してしまう。
女所帯だからグループとかはもちろんあったけど、グループ派閥なのは特になかった。
少なくともウチの学年に限って言えば。他の学年は情報がないのでよく知らないけど。
だから普段話さない子も、話さないってだけで、仲が悪いわけじゃない。
挨拶くらいするし、授業でグループになったら普通に話せるし。
けどいざこざがないっていうのは、よくも悪くも陰口とかもないので、グループ内で他のグループの話をするとかもあんまりないわけだ。
結論、普段から話さない子のことは、最低限の情報を除いていまいちよく知らない。
最低限の情報っていうのは、ラインを設けるとしたら所属してる部活を知ってるかどうかとか、そういうレベルの話だ。
私はユリやアヤセ、最近は心炉もか。
あと生徒会のメンバーくらいの交友関係で十分な毎日を送ってこれたけど、そうじゃない子もいるんだろうな。
それこそアヤセとか、どこで知り合ったんだよって言ってやりたいほど顔が広いし。
同学年だけじゃなくって、上や下にもそれなりに顔が利く。
一回、何かの拍子にスマホのメッセージアプリの通知バッジを目にしてしまったことがあったけど、恐ろしい件数がついてたな。
ROM専の公式アカウント系をフォローしまくってたのだとしても、あそこまではいかんだろっていうくらい。
流石の彼女でも、同時に何人も相手にするのは無理ってことなんだろうね。
とはいえあの性格だから、時間は置いても全員にちゃんと返事をして、ちゃんと良い顔できるように気を付けてはいるんだろうけど。
人にはそれぞれ交友キャパってやつがあると思う。
私は今が限界ギリギリいっぱいって感じ。下手すれば表面張力までは酷使してるかもしれない。
もしも決壊したらこれ、どうなるんだろうね。
写真の中に琴平さんの姿を見つけた。
スウェット姿に、さらっさらの髪を後ろでまとめて、THE部屋着モードって感じ。
学校の制服ってかなりフォーマルな衣装の認識だから、こうして生活感のある姿を見るとイケナイことをしているような気分になる。
ドキっとまではしないけど。
とか考えてたら琴平さんからメッセージが送られて来た。
流石にこれはドキッとした。
――今から来て混ざります?
なんの前置きもなしに、そんなひと言。
たぶん、私から連絡がきたことを穂波ちゃんに聞いたんだろうな。
だからって、そんな酔っ払いの絡みみたいなメッセージを送ってこなくても……ちょっと怖くなって、さっきの写真をもう一度開いた。
テーブルを拡大して、飲み物のラベルを……あ、大丈夫だ。
ただのジュースだ。
個人宅で隠れて飲むくらいなら、まあ好きにすればって感じだけど、寮はマズいでしょ。
流石にそれは理解してるようで安心した。
毎年ひとりふたりくらい見つかって謹慎になるヤツいるもんね。
高校生ってのは、どんなに偏差値が高くっても、基本的には馬鹿なんだから。
そういう私はちゃんと飲んだことはない。
ちゃんと――っていうのは、小さくてもっと馬鹿だったころに、親の飲んでるビールがやたら羨ましくって、美味しそうに見えて、泡だけ舐めさせてもらった記憶があるからだ。
苦くてまずかったけど、あの頃はそれが楽しかった。
そもそも姉がそうしてたから、真似してたんだっけ。
そこはちょっとうろ覚えだけど……小学生くらいのときは、姉のやってたことは何でもかんでもやりたがったな。
結果として毎日のように習い事ばっかりになったりして。
うう……今思えば、なんて恥ずかしい記憶だ。
消し去ってしまいたい。
それはそれとして、既読もつけてしまったので「遠慮しとく」と短く返事を返しておいた。
するとすぐに「ぴえん」の絵文字だけ返ってくる。
軽くイラッとするのと同時に、ほんとに飲んでないよねって心配になってしまう。
私は見たままを信じるけどさ。
何があっても、大事な後輩に迷惑かけないでよね。