結局のところ、明日プールには行くことになった。
遊ぶって言うよりは、リフレッシュが目的。
予定しているプールは私も行ったことがあるけれど、確か水着で入れるお風呂も併設されていた気がする。
温泉じゃないけど「温泉でも行きたいな」と思っていた私は、ずっとそこに浸かってても良いかななんて思っている。
バスで三○分くらいだし、泊まるわけでもない。
荷物もそこまで必要ない。
タオル。
濡れても良いパーカー。
小分けした化粧品とシャンプー類。
スマホの防水カバー。
屋外プールは夏季限定だから、日焼け止めを準備しなくていいのは楽だ。
全身塗ると考えると、値段も馬鹿にできないんだよね。
後は、バスやプールサイドで勉強する用のポケット参考書。
それらを入れておくビニールポーチ。
これで基本的な準備はOKだ。
「さて……」
今準備したものは脇に置いておいて、私はベッドの上に広げた色とりどりの水着と向き合う。
一番肝心で、難儀なものを決めよう。
とりあえずハイネックでフリフリな、いかにもリゾート気分な感じのやつは外しておく。
全部、姉のバリのお土産で、少なくとも片田舎のレジャープールに着て行くものじゃない。
普通のビキニも無しかな……屋内で暖房が効いているとはいえ、窓の外が雪景色の中でこれを切る勇気はない。
ワンピースも、最近は可愛いデザインのがいっぱいある。
これはまあ候補に入れておこう。
タンキニなんかも割と好き。
身体を絞るのを忘れたor絞る時間が無い時の強い味方。
そういう意味では、いっそのことラッシュガードでも良いね。
ホントは日焼け対策に買ったヤツだけど、今は今で使い道がありそうだ。
――と悩むのも、今年は水着を買っていないからである。
たいてい年に1着は水着を買って、その年の海やプールに備えるものだけど、今年はハナからそんな予定はないと決めつけていたし。
実際、夏には予定が立たなかった。
だからこの、クローゼットの肥したちも、去年までのコレクションというわけである。
この、一度着た水着をもう一度着るのに若干の戸惑いというか、テンションの低下を感じるのはなんでなんだろうね。
少なくとも、流行がどうこうっていうものじゃない。
別に、使い捨てってわけでもないのに。
ぶっちゃけそんな高いもんは買ってないっていうか、むしろ安いものばっかりだと思うけど、それにしても水着という品に対してだけは、もったいないお化けは現れない。
そういう意味では、去年買って着たタンキニが一番テンサゲで戦力外だ。
今からわざわざ買いに行ってられないし、古のコレクションから選ぶしかないね。
ちなみに、他の面子はどうするつもりなんだろう。
グルチャで聞くのはなんか恥ずかしいので、個チャで訊ねてみる。
――普通にビキニっぽい奴だか。
アヤセの回答はいたってシンプルだった。
あいつ、チューブとかホルターとかデザインの差はあれ、基本いつもビキニだったね。
和菓子屋の癖に細い体しやがって……と謂れのない文句を言っておく。
――別に、普通の水着ですよ。
同じ「普通」でも、心炉の返事は何の答えにもなってなかった。
――普通ってどういうの?
――普通です。
話にならない。
それで通すつもりなら、まず毒島家の普通を私に教えて欲しい。
なんとなくビーチリゾートで麦わら帽子をかぶっている姿が思い浮かぶけど、私も候補から外したくらいだし。
夏場の屋外プールならまだしも、屋内プールにはちょっと合わないよね。
――普通に秘密!
もっと話にならない奴がいた。
ユリは、ムカつく顔の動物がダラダラダラダラと太鼓を鳴らすスタンプと共に、一切の情報を漏らさなかった。
――そこを何とか。
――秘密!
一緒に、別のムカつく顔の動物が変な踊りをしているスタンプが送られて来た。
何なんだこのスタンプのシリーズは。
とりあえず、参考にならないことだけは確かだった。
「さて、困ったね」
本当に困ったときは、自然とひとり言が出るもんだ。
誰が返事をするわけでもないっていうのに。
誰かに語り掛けるように言うことで、他人事っぽさを出て落ち着くんだって、何かで聞いたことがある。
とりあえず、姿見を前にそれぞれの水着を当ててみる。
モコモコのフリースの上からスカスカの水着を当てる図は何とも間抜けだ。
でも脱ぐのは寒いから仕方がない。
そもそも、なんとなくやってみたけど、この行為に何の意味があるのかいまいちよく分かってない。
お店でどれを買うのか選んでいるのならまだしも、既に買って、しかも一回は着てみたものなのに。
強いて言えば体形の変化とか……?
こんな厚着の上じゃ、それもよく分かんないけど。
確かに年末年始少し食べ過ぎたような気はするけど、そんなに変わってないんじゃないかな……自分に言い聞かせる。
ただ、この中じゃワンピースが一番古いやつだから、ちょっとサイズは心配だ。
やっぱり、ラッシュガードにしようかな……うん。
そうしよう。
一度決めてみると、それ以外に選択肢が無かったかのように、スッキリと胸の内に収まった。
たぶん、ほとんど心には決まっていたんだけど、何かきっかけが欲しかったんだろうね。
とにもかくにも決まった水着を畳んで、防水の巾着に押し込むと他の荷物と一緒に部屋の片隅に積み上げておいた。
本当に、遊ぶのはこれが最後だ。
あ、遊ぶって言っちゃった。
違う違う。
リフレッシュしにいくだけ。
ジャグジーのお風呂にじっくり浸かって、スマホでぼんやり解説の声とか一切入ってない動物の動画とか見るんだ。