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婚儀の夜〜告白(1)




(2025.5.25)

 ムーンライトノベルズの連載に際し、改題のうえ、最新話までの内容に多少の変更を加えております。旧バージョンを読んでくださった方には、内容が繋がらないところがあるかも知れず申し訳ありません……!(初夜(2)(3)/R要素強めです)


(おもな変更点)

・レオヴァルトがアルハンメル王家の第二王子であることを読者に示しました。

・アルハンメル王家は、王族の純粋な血を引くレオヴァルトを国王に擁立しようとする勢力と、腹違いの王太子との間で王位継承問題を抱えている事を序盤で示しました。レオヴァルトは自身の即位を望んでおらず、黒騎士となって放浪の旅に出ています。(黒騎士の転身(1)にて)


・レイモンド司祭は、レオヴァルトの腹違いの長兄であるアルハンメルの王太子(国王に即位)に媚を売ろうと企んでいます。(レイモンド・ラーリエの黒い策略にて)


・ユフィリアは筋肉質な男性の二の腕フェチであることを示しました。

・ユフィリアは、名前も顔も覚えていないものの、前世の記憶を《悪夢》によって知り、かつて愛した第二王子殿下の事を忘れられず、今も愛し続けています。(グレースの憂鬱(2)にて)




(婚儀の夜・全4話/連日更新予定・後半はR要素強めです)

(警告が出た場合は内容を緩慢にする可能性あり)

 *┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈*




 目を覚ますと、見知らぬ部屋の、見知らぬ寝台の上に横たわっていた。


 ユフィリアは、寝ぼけ眼のまだ半分しか開かない目で幾度となく瞬きを繰り返した。

 窓の外は深い海の底のような群青色をしていて、温かみのある橙色の光が白い天井を照らしている。


 ぼんやりとした視界に映るのは、至ってシンプルな部屋だ。視線の先に四人掛けの机と椅子があり、すぐ近くの窓際にはこぢんまりとした長椅子と小さめのテーブルが置かれている。

 部屋はさほど広くなく、清潔に整ってはいるものの、客間というほど豪華でもない。


「…………ぅん……っ」


 自分はなぜ、こんなところで眠っていたのだろう。

 ぼんやりとした頭で考えていると。


「起きたのか」


 寝台の横で低い声がした。

 見れば、漆黒の騎士服を纏った黒騎士──ならぬ、白っぽい軽装の青年が寝台のすぐ横の窓枠に腰掛けてこちらを見下ろしている。


「……んっ……レオ? どうしたの、そんな格好……珍しいじゃない」


 眠い目を擦りながらゆるゆると起き上がる。

 見れば自分も薄い膚着一枚を纏っているだけで、華奢な身体の割に育ちすぎた胸元が不恰好に強調されている。


「ひゃっ」

 慌てて足元に掛けられていたナイトガウンを引っ掴み、胸元を隠した。


「なっ、なんで?! って言うか……レオってば、そこで何してるのよ……っ」


 燻っていた眠気など一気に吹っ飛んでしまう。

 胸元を隠しながら、いかがわしいものを見るような視線を向けていると、レオヴァルトは「やれやれ」と言いたげに溜息を吐きながら手のひらで顔を覆った。


「見てわからないか。読書だ」

 気怠げに言いながら、開いた本を片手で持ち上げてひらひらさせる。


「なっ、なんでそんなとこで本なんか読んでるのっ」

「暇だから」

「暇って……。本なら、自分の部屋で読めばいいじゃない」


「は?」

「へ?」


 鼻で深い息を吐いたレオヴァルトは、窓枠に本を置いて立ち上がる。

 洋燈の光の加減で影が落ち、ユフィリアが見上げたその体躯は目の前に聳えるようだ。


 いつもと違っているのは、レオヴァルトが漆黒のいかつい騎士服ではないこと。

 ユフィリアが膚着一枚なら、レオヴァルトも薄いシャツ一枚にブレーといった軽装だ。シャツの胸元を広くくつろがせており、筋肉質な胸板がこれみよがしに覗いている。


 ユフィリアは目を丸くする。

 ぶ厚い胸板だけでもユフィリアにとってはなのだが、更に興味を惹かれたのは、肘まで捲ったシャツの下に露わになったレオヴァルトの《二の腕》だ。


「まったく。私の妻のぼけっぷりには困ったものだな? まぁ、そういうところが可愛らしいのだが」


 言いながら、レオヴァルトは優しく目を綻ばせて寝台に膝を付く。

 ギシ、とマットレスを軋ませながら、そのままユフィリアの上に覆い被さった。


「ウン?」

 レオヴァルトの両腕に囲われながらも、ユフィリアの視線は《二の腕》から離れない。


「……ねぇっ。触ってみても……いい?」


 二の腕を指差しながら、一気に表情を明るくしたユフィリアがレオヴァルトを見上げる。じゃじゃ馬聖女からこんなに熱っぽい視線を向けられたのは初めてだ。


「あ、ああ……」


 戸惑いながらも仕方なくレオヴァルトが身体を起こすと、を前に、ユフィリアは目を輝かせた。


「はぁぁぁっ、なんて綺麗なの……。最高よっ。これぞまさに私が求めていた二の腕だわ……」


 宝物に触れるようにそっと触れたかと思うと、躊躇いがちに筋肉の筋に沿って指を這わせる。そのうち崇めるように両手で持ち上げて、うっとりと頬を寄せた。


「……ッ!?」


 そんなユフィリアのに引き気味のレオヴァルトだったが、ユフィリア蕩けそうなほど幸せそうな表情をしているのを見て眉尻を下げ、また「やれやれ」と肩を落とした。


「そんなに私の腕が気に入ったのか?」

「ええ、気に入ったわ……私、二の腕がフェチなの。レオの二の腕は筋肉のつき方がすごく綺麗。この太さもたまらない……。良いわ、見てるだけでドキドキしちゃう……!」


 人のへきというものは実に様々だなと呆れ気味に嘆息するが、嫌われるよりはいいと思い直した。


「ならば。この腕で抱かれれば、もっと良くなるかもしれないな?」


 ふっ、と微笑んで切れ長の目を細めたレオヴァルトに、「えっ?」と、ユフィリアの丸い瞳は更に丸くなる。


「忘れたのか。私たちは今日、婚礼式を挙げて正式な夫婦になった。緊張と疲れとであなたが眠ってしまったから、今夜はそのまま寝かせておくつもりだったが──」


 レオヴァルトの引き締まった両腕がユフィリアの身体を囲んだ。


「れっ、レオ……?!」

「宣言通りキスの仕方から教えようか?」


 ふっ、とレオヴァルトが唇を吊り上げる。 


「待って……、私、まだっ」

「頼むから、まだ眠りたいなんて言うなよ。夜が明けてしまう」


 射抜くような視線とともにレオヴァルトの綺麗な顔がゆっくりと近づいて、視界の中で大写しになる。ユフィリアは慌てて両手でその顔をぐいっと押し戻しながら、視線を背けた。


「待って?! だめだめだめっ!!」


 手のひらの下でレオヴァルトの喉元が「んぐ」と息を呑む。いきなり両手で顔面を強く押されたのだから当然だ。ユフィリアの手が離れた後も、高い鼻梁を抑えて眉根を寄せる。


「……鼻を押すな、鼻を」

「ご、ごめん。でも……だめなのっ」

「私と交わってグラシアを強大化させたいと言ったのはユフィリアだろう? 婚儀まで済ませておきながら、今更拒むのか?」

「いっ、いきなり押し倒すんだもん。私にだって心の準備とか、レオに話しておきたい事とか、あるんだから……」


 ナイトガウンを胸元に手繰り寄せて、モジモジしながら下を向く。レオヴァルトも少し冷静になったのか、深く息を吸ってユフィリアの隣にあぐらをかいた。


「あなたの心の準備までは知らないが。私に話しておきたい事、とは?」


 ナイトガウンの端っこを弄りながら、しばらくモジモジを繰り返していたユフィリアだが。意を決したようにすっくとレオヴァルトを見上げる。

 先ほどまで溌剌と輝いていた蒼い瞳がいつになく潤んでいて、レオヴァルトを驚かせた。



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