――語り部より、託されて
場面は移り、再び戦禍被るエルフ国フィヨーツにて。
「急いでくださいっ! 早くここから逃げてっ、森の奥へっ!!」
「ありがとうございますっ……ありがとうございます……!!」
エルフ国軍と魔族軍。
拮抗状態が続く両者の激突その最中。
「はぁ……はぁ…………おいっ! そっちはどうだっ!?」
「もう民間の姿はありません! 全員森の中へと避難できたかとっ……!」
「よしっ! あとは残りの魔物らを倒すだけだっ!!」
懸命に、この国を守ろうと動くエルフ国兵たちの働きにより。
状況は少しずつだが、最悪の状態からは徐々に、徐々にと改善されてきて。
この国の未来を守るため。
この国の民を守るため。
この国の、全ての家族を守るため。
「ここを堪えればきっと……! リフィータ王女様が奴らを倒してくださるはずっ……!」
「そうだっ! だからもう少しだっ……! もう少しだけ踏ん張れっ!!」
勇猛な兵士たちはみな、己が仕える主人の力を信じ。
きっと、魔族という名の悪を滅してくださると思い込み。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
「グバァァァァァァァッ!!!???」
「よォォォォしッ!! 次行くぞォォォッ!!!!」
ある者。手に持つ武器を掲げ、瓦礫の山と化した街中を勇猛果敢に走り抜ける一人の若きエルフ国の兵士は。
この困難を乗り越え再び平和な暮らしを取り戻すのだと、目の奥強き光を宿しては、確実に減らされていく魔物たちを見るごとに、己が心に希望を灯していく。
しかし。
そんな願いは、魔族オーキュノスという親玉を倒さない限り、決して叶うことはなく。
それは、生命の樹内部でも同じことであり――。
「魔技…………“
「グギャァァァァッ!!!!」
「“
「グバァァァァァッ!!!!!!」
生命の樹、その転生がきっかけとなり。
数世紀に一回という、此の機会を逃さんとして。
さらなる侵略と目論みを進めるため、マナの実の強奪と生命の樹の滅亡を狙おうと……魔族幹部オーキュノスを中心とした魔族軍によるエルフ国フィヨーツへの侵攻が行われてから、ここまで既に
「はぁ……はぁ……! みな、みなどこにっ……!」
激戦も激戦。地上から空中、はたまた異次元なる空間内と。各所、命運を賭けた闘いは苛烈を極めるなか。
生命の樹を構成する四つの空間の内、水のマナ司りし“形成の間”では右京瀧が。土のマナ司りし“活動の間”では岩上護が。そして……火のマナを司りし“流出の間”では。急遽、エレマ部隊本部基地から駆け付けた天下烈志がローミッドと共に……それぞれ、魔族側であったツァーカム、キムラヌート、エーイーリーを各個撃破すること成し遂げていった。
セフィラとの出会いに、第三者による助けなど。
重なる奇跡に導かれ、ここまで無事に来られたが。
だが、その代償。
「リフィータ王女っ…………マルカ殿……!」
何十、何百という数の民間人や、国を守るエルフ族の衛兵たちに。
ローミッド・アハヴァン・ゲシュテインという尊き存在を亡くされて。
「いったい、どこに行ってしまわれたのですかっ……!」
ここまでの犠牲者の数は知れず、それでも。
それでも、一つずつと。状況は少しずつ、少しずつ流れは魔族側から人族及びエルフ族側へと傾きつつあった。
「ミツケタッ! イタゾッ!! コロセッ、コロセッ!!」
「――っ!!」
事態が起こる前、その時までは。
レグノ王国と、日本国。そして、エルフ国の三か国間が。
マナの実の所有を狙う探り合いや、人と国家信用を天秤に乗せた取引に応ずるか否か、その決断についてを各々に、思案巡らせ画策していた。
されど、そんなこと。魔族襲来を経た今となってはどれも全て、過去に起きた出来事のたった一つとしての記憶として上書きされてしまえば、みな意識はあっという間に
各々が、大事とするモノを守るために、壊され失ってしまわぬようにと。
奔走し、必死の形相を顕わとして。
無限に広がる幾層の空間を。一寸先は闇のなかを、藻掻き、苦しみ彷徨いながら。
何が今、この一瞬一瞬に起きているのかさえ分からないままに。
理解不能な敵に追い回され、囲い込まれ。
逃げる視界の端には同胞が屠られる光景を刹那に目撃しては其の都度に。重ね重ね、胸の内は恐怖によって支配されそうとなる。
持つ力振り絞って応戦すべきか、全てを投げ打って逃走を図るべきか。
断続的に続く判断の瞬間、その一つ一つを迷わず正しく選択し。たった一つでさえも間違えてしまえば、向かう道の行く末を、生の終わりだと誘われてしまい。
常に国を、民を守るべくと心に誓い、人生を懸け研鑽を積んできた者でさえも。
この状況、いざ戦となれば。その用意された心構えは天の加護という効果の功罪によっていとも簡単に崩れ去り。怪異怪奇を目の当たりにした途端、想像を絶する緊張感と、どんな言葉でさえも形容しがたい圧迫感に思わず耐えきれず、泣き喚き、逃げ惑い、押しつぶされそうになる。
ある者はただ、生きる為だけに。
ある者はただ、自己欲の為だけに。
ある者はただ、愛する者を守るため。
その為だけに――。
魔物によって倒壊した家屋の下敷きとなった息子、妻を助けたい一心で。
焔に包まれ戦禍と化した街を駆け回る兵士を探し。
もはや誰でもいい、誰でもいいからと。
叫び、青ざめた表情で助けを求める父の姿が、そこにはあり。
老いた母を背負い、命からがらと。
皆が避難先へと向かう森の中を、脚がボロボロとなっても突き進もうとする息子と娘の姿が、そこにはあり。
まだ言葉も話せない赤子を胸に、抱きしめて。
決して落とさないように。決して何者の手によって傷つけられないようにと。
空気中に舞い散る火の粉の全てを、その一身に受けながらも。皮膚が炙られる痛みを堪え忍び、我が子だけは助けようとする母の姿が、そこにはあり。
約束された平穏など、もうどこにも存在などしない。
いつ、この地獄が終わるのか。
誰が、この闘いに終止符を打ってくれるのかと。
一刻も早く、我に救いの手を差し伸べてほしいと。
そう、僅かな祈りでもどうか、天に届いてほしいと願い続けるも。
その願いが届くかどうかなど。
生命の樹でさえ、分からない――。
「ヒキチギレッ!! 嬲リコロセッ!!」
皆が、神へと向かって祈る中。
「くそっ……! またこいつらっ……!!」
既にここまで顕現されたのは。
水のマナの実に土のマナの実、そして火のマナの実の3つとなり。
「「「ギャハハハハハハハハッ!!!!」」」
いよいよ。未だ顕在されず、残されたものは。
「…………魔技っ!」
「シネッ! シネェッ!!」
「“
「「――っ!? ギャアァァァァァァッ!!!!!!」」
風を司るマナの実、ただ1つ。
「…………ぜェ、はァ……」
様々な思念と思惑が。
「…………ザフィロ」
手招き誘い、絡み合う。
再び手にするは人族か。
はたまた魔族の手による犠牲が出るのか否か。
想い、矜持、願いその全て。
乗せて。乗せては溢れ、零れ落ちる。
救済を願いし、四ツ目の闘いが。
「どうか……どうか無事であってくれっ……!」
いま、幕開ける――。