――光帝リヴァイアサン歴130年 2月26日――
ホバート王国が2つに分裂し、さらには
セツラ・キュウジョウを始めとする温泉行きたい派たちは、こぞってカズマの提案を受け入れたがった。だが、
「
「そこなのよね。幹部たちだけで温泉に行こうものなら、あたしたち全員袋叩きにされるわ。なるべく、皆の慰労になるようなことをしたいわ」
エーリカは団の全員のことを考えての発言を
「それならば、こうするのはどうでしょうか。エーリカ殿の言うように一か所の温泉に300人が一斉に行くのは不可能です。
「うん、そうね。それなら、あたしも温泉慰労会には賛成。でも、なるべく皆が平等に質の良い温泉に浸かれるように配慮してほしい」
「そこはご安心を。カズマ・マグナの名にかけて、皆様がのんびりゆったりと温泉を楽しめるようにいたします」
マグナ家は商家である。商人としての伝手を辿れば、いくらでもエーリカ率いる
それからの1週間。
血で血を洗う
皆は口には出さないが、なるべくエーリカと同じ班にならないことを祈った。この1週間の間、温泉慰安旅行の準備に勤しむ
「うひょおおお! 俺はコタロー様の班だぁぁぁぁ!!」
「くっそ、羨ましいぃぃぃ! だが、おれはジゴローさんの班だっ! これはこれで当たりだぜっ!」
「ぐぅぅぅ! エーリカ様と同じ班だ……。皆、楽しんできてくれ……」
「セツラ様の班か……。うおおおお! セツラ様の湯上り姿で満足していいものなのか!?!」
天国と地獄行きの審判が実際に存在するとすれば、今、まさにこの瞬間なのだろう。エーリカは何故にここまで班決め如きで、一喜一憂する団員たちが出てくるのだろう? と不思議に思って仕方が無い。風呂上がりの美少女といっしょにちょっとした催し物を楽しめるのだから、これ以上無い幸せだと感じてほしかった。
だが、それこそ、エーリカやセツラと同じ班の男どもにとっては生き地獄である。決して手出し無用の女子相手に、いったいどうしろという話になってくる。首魁が寝た後にこっそり宿を抜け出そうかと相談しあうエーリカ班とセツラ班に配属された男どもであった。
それはともかくとして、約束の1週間が過ぎ、
幹部たちは幹部たちで組み合わせの
エーリカは何故かは知らないが、こういう時だからこそ、違った組み合わせを期待したのだが、自分のパートナーはタケルお兄ちゃんになってしまうのであった。
「いやまあ、タケルお兄ちゃんが催し物の司会をやってくれるから、あたしとしては安心なんだけど、なぁんか違うのよねっ!」
「言いたいことはわかる。俺も出来るならコタローと組みたかった。理由は聞かんでくれ」
「あっ、そうなの? じゃあ、
それはそれでどうなのだろうと思ってしまうタケルであった。そうなった場合はエーリカとセツラがペアになるのだろうが、女ふたりで組ませた場合、下のほうが収まりきれない男共を抑えきれるかどうかが問題になってくる。下手をすれば、エーリカ班の男連中が全員もれなく去勢されるという事件が起きてしまうかもしれない。
ちなみにセツラには大魔導士:クロウリー・ムーンライトがパートナーになっている。これはこれで問題ないペアだ。世の中、上手いこと出来てるもんだなあと思ってしまうタケルであった。何はともあれ、幹部の女性陣によっておちんこさんがちょんぎられる事件が起きる危険性は皆無となった。
エーリカ班が向かった先は鉱山都市:ウエダの町であった。この近くには良い温泉が湧く地方があり、ウエダで働く
「ふぅぅぅ。極楽極楽……。思いっ切り足を延ばして肩まで浸かれる温泉なんて、数年振りだわ……」
ホバート王国の風呂は基本的に蒸し風呂であった。王侯貴族ともなれば、自分専用の湯舟を各々が持っている。エーリカは田舎に住むしがない刀鍛冶の娘である。数年に一度、両親がエーリカを連れて、温泉へと連れて行ってくれはしたが、自分が主催者となって温泉街にやってくるのは、これが産まれて初めての経験であった。
それゆえに貸切風呂というシステムがあまりよくわかっていなかった。自分専用に借りれる温泉の一室だと思い込んでいたのだ、タケルがそこにすっぽんでやってくるまでは……。
「ええええ!? なんで、タケルお兄ちゃんがあたしのお風呂に入ってきてるのよっ!?」
「ええええ!? 俺はカズマ殿に言われた通りに俺用の貸切風呂に入ってきたつもりなんだがっ!?」