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不機嫌な王子様(6)



「ひとまず、これで成立ですね」



「……まあ、そうだな」



「あら、ご機嫌ナナメのようですが?」



「そうみえるなら、そうなんだろうな。でも、シアが満足ならそれでいい」



「依頼を受けてくださり、ありがとうございます。これで、心置きなく同行してもらえますから。ところで、エルディオン様は、もちろん同行されますよね?」



「愚問だ。同行を許可してもらえなかったら、隊列の背後に潜んででも同行するつもりだった」



 さきほどまでのエルディオンの雰囲気であれば、本当にやり兼ねない。



「依頼があるおかげで、シアのそばにぴったりと張り付ける。覚悟しておいてくれ。居心地が悪くても不平不満は受け付けないからな」



「そんなことを云っていると、アレコレとこき使われてしまうかもしれませんよ?」



「望むところだ」



 翌日。



 エルディオンに呼び出されたシルヴィアは、訓練場にいた。



「魔物の討伐遠征に、志願した者たちだ」



 副団長のケイオスを先頭にズラリと第一騎士団が整列している。



「えっ、全員ですか?」



「そうだ。全員だ」



 冬山の魔物討伐は、昨日、依頼したばかり。報奨金と慰労金の金額は、まだ提示していない。



 それを待たずして、温かなバイロン城での生活よりも、冬山での寒い野営を選ぶだろうか。しかも危険を伴う魔物の討伐だ。その希望者が騎士団全員だと云われ、シルヴィアは疑わずにはいられなかった。



「まさか、無理やり……」



 疑いの眼差しを向けられたエルディオンは、心外だ、とばかりに首を振り断言した。



「そんなことはしない」



「冬山での野営になることを、皆さんにはお伝えしていますか? それから条件面についても了承を得ていますか?」



「もちろんだ」



「……本当ですか?」



 信用されていない団長を援護したのは、副団長のケイオスだった。



「俺たちは、だれ一人として遠征の参加を強要されていません。全員が自分の意思で、今回の魔物討伐への参加を希望しました」



「まだ、報奨金や慰労金の金額が決定していないのですよ? 明日には、皆さんにお伝えできると思いますので」



 参加の是非は、それから決めても遅くないと、伝えるシルヴィアに、ケイオスもまた終始一貫していた。



「それらは二の次、三の次です。俺たちを騎士団を温かく迎え入れてくれたシルヴィア嬢、バイロン城と城下町に住まわれている方々のため、いてはレグルス辺境領のために、お役に立ちたいのです」



 それを合図に、騎士たちからは感謝の言葉が口々に紡がれ、全員の参加を認めるように、シルヴィアに訴えてきた。



「わかってもらえたか?」



 エルディオンに問われたシルヴィアは、頷くしかない。くれぐれも、報奨金と慰労金は受け取るようにと念を押して、騎士団全員の参加を承諾した。



「ありがとうございます。皆さん、よろしくお願いします」



 翌週、冬晴れの朝。



 南東に向かって、総勢70名の遠征隊がバイロン城を出発した。



 当初は、この半数の規模を予定していた調査隊。



 それが倍以上の編成となり、先頭と最後尾にはそれぞれ10名ずつの第一騎士団がいて、残りは等間隔に、馬車や荷馬車の車列を護るように配置されている。



 シルヴィアと侍女のエマが乗る馬車にいたっては、右にケイオス、左にエルディオンと、第一騎士団のトップふたりがぴったりと張り付いていた。



「お嬢様、何と云いますか、仰々しいといいますか……王都に向かわれた領主様たちよりも護衛が多いような気がするのですが」



「エマ、居心地が悪い──って、正直に云っていいわよ」



「では、遠慮なく。騎士団の皆様は、やる気に満ち満ちていらっしゃるので、まるで魔物の巣窟に、魔王でも討伐しに行くようで、まったく落ち着きませんね」



「……否定できないわね」



 目的地の低山までは平野がつづき、山が近づくにつれて吹きっ晒しの風が強くなってくる。陽が沈みはじめると、急激に気温が下がっていくのを感じた。



 馬車の中にいても足元が冷えているというのに、山からの風に晒されている馬上の騎士団やバイロン兵たちは、どれほど寒いだろうか──と、心配していたシルヴィアだったが、遠征初日の野営にて、調査隊を率いるエルマーが「これほど楽な遠征はありません」と満面の笑みで報告にやってきた。



 理由を訊けば、



「野営地の設営にしても、周辺の見回りにしても、ほとんど騎士団の皆さんがやってしまうんですよ。俺たちが動こうとしたときには、『あれ、もうできている』って感じで。さすがです」



 それについては、料理番と同行してくれた副料理長も驚いていた。



「お嬢様の馬車に先行して野営地に向かったのですが、調理場のテントがすでに設営されていて、水の確保も、風けも、火起こしもバッチリ。わたしは準備してきた食材を、用意された寸胴でグツグツ煮込むだけで良かったんですよ。いやはや、恐れ入りました」



 野菜たっぷりのスープとパンで夕食を済ませたシルヴィアは、そのまま第一騎士団の天幕へ向かった。



 魔物や獣が出やすい山側を陣取った騎士団の天幕付近では、剣の手入れをしている若い騎士たちがいた。



「こんばんは」



「シルヴィア嬢?!」



 侍女のエマを連れて現れたシルヴィアに驚き、椅子にしていた丸太から勢いよく立ち上がった。









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