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第4話 くそウサゴリラ

「エル! エル……!」


 私は必死に彼の名前を呼び続ける。

 でも彼からの返事は返ってこない。


「PURIPURIPURI……!」


 返ってきたのはプリプリと言うプリティラビットの高笑いだけ。

 私たちのこの光景を目の当たりにしてさぞ面白いのでしょうね。

 エルが私を庇って血だらけになる……そんな勇敢さを無謀だ、バカだとコイツは思っているのだろう。

 確かに私なんかを守っても何の得もない。

 それどころか両親の仇である獣人に見間違えてしまう程だ。

 プラスよりマイナスが勝る。


 これも……これもあのくそ女神様が仕向けたシナリオなのだろうか。


「くそがよぉぉぉおおお! やってやんよ!」


 そう思ったら再び腹が立ってきた。

 私は地面に落ちているエルが使っていたレイピアを手にする。

 普通の剣よりは細身で軽いのだろうが、私には重たすぎて両手でないと持つことは出来ない。


「はぁ──!」


 レイピアの重みのせいでジグザグと前に走りプリティラビットの元へ向かう。

 高笑いをして少し反応が遅れたプリティラビットは胸を叩きドラミングを始めた。

 その瞬間──私の右頬に風の刃が掠る。でも今はどうでもいい。兎に角……兎に角、コイツに一発お見舞いしてやりたかった。


「刺されぇぇえええ──!」


 プリティラビットの首元目掛け、高らかに飛び上がり、両手持ちしたレイピアを思いっきりぶっ刺す。

 すると、ポタポタと言う緑色の血がプリティラビットの首元から滴る。

 気持ち悪さも去ることながら初めて生きた動物を刺してしまった、と言う少しばかりの恐怖がある。

 それよりもエルをよくもボロボロにしてくれたな、と言う憎しみが何よりもまさった。


「FUGU……」


 プリティラビットは首元を刺されたのにも関わらず、不敵な笑みを浮かべ、トゲがある魚の名前に近しい言葉を静かに発し、私を睨みつけ、レイピアの矛先を掴んだ


 同時に私は死を覚悟した。

 レイピアは諦め手を離し、プリティラビットの身体を蹴って後ろに下がる。

 しかし、それを読んでいたのかプリティラビットはレイピアの持ち手を私の脳天目掛けて振りかざす。


「うがっ──」


 右目が真っ赤に染る。

 それもそのはず私の頭からはダラダラと赤い鮮血が滴っていたのだ。

 頭痛を何倍にも凝縮させた痛みが私を襲う。

 でも風の刃で切り裂かれボロボロになったエルはこれ以上痛いに違いない。


「いいさ、くそウサゴリラ。私の身が朽ち果てるまで戦ってやろうじゃないの!」


 既に私は満身創痍だ。

 自分で何を口走ったのかすら分かっていない。

 痛くてどうしようもないが、どうしようもなくずっと腹が立っていた。

 大学に向かう時に死んだのもありえないし、転生させられたのありえないし、転生した場所も人をバカにしているようなものだった。

 そして、こんな首から上だけ可愛く、下はゴリラみたいにムサイ化け物に殺されるのはもっとありえない!


「せめて、せめて……一泡吹かせてやんよ」


 ダメで元々だ。


 私はおもむろに地面の土を握りしめる。

 別に甲子園で負けたから、土を袋の中に入れたりをする訳じゃない。

 この世界に甲子園があるのかどうかは知らないが。


 私は縦横無尽に駆け抜ける。

 レイピアを持っていた時より軽やかに動けた。

 くそウサゴリラは図体がデカい分、動きも鈍かった。

 ぐるりと一周する形になり、くそウサゴリラの目の前までやって来る。


「──喰らえ!」


 手にした土をくそウサゴリラの目に向かってお見舞いする。

 私の狙い通り目に土が入ったようで両手出目を擦っている。

 その際にくそウサゴリラは握っていたレイピアを手から離した。


「もう一度、一度だけでいい……」


 一回目は致命傷にならなかったけど、同じところに刺せたら何かが変わりそうな気がする。


 チャンスは今しかない。


 暴れながら目を擦っているプリティラビットに向かい、レイピアを両手で持った私は再び突進する。


「くたばれぇぇえええ──」


 暴れていたけど、運良くさっき刺した場所に再び突き刺すことが出来た。

 ポタポタと滴る緑色の鮮血は更に速度を増して滴る。


「UGO、UGO……!」


 突然やってきた激痛にもがきながらも、更に大きく暴れ始める。


 これなら……いける!


 私は勝利を確信し、刺さったままのレイピアを無我夢中にグリグリと動かす。

 動物を虐めているみたいであんまりいい気分はしないけど、殺らなきゃ私が殺られる。


 でも爪が甘かった。


「……UHOOOOOO!!!」


 視力が回復したのかくそウサゴリラはレイピアを掴み、自慢の怪力で引き抜くと、私は宙へと浮く形になり、そのまま叩きつけられた。


「う……へ……」


 出血多量に強打。私は活動限界に近かった。

 意識が完全に失いかける瞬間──


「プリティラビットだ! 皆の者、戦闘準備!」


 エルではない男の人の、それも野太い声が聞こえた。

 そうして私の意識はパッタリとなくなる。

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