最後の晩餐を彷彿とさせるテーブルがある部屋に戻ってきた。
どうやらここは貴賓室らしく今更だが貴賓の低い私がここに居ていいのだろうか。
否! 間違えて刺され痛い思いをしたのだ、いいに決まってる。
昔ながらの古き良きロングスカートのメイド服に身をまとったメイドさんがテーブルにこれでもかと豪勢な料理を運んできてくれた。
でも私を見る目は少し嫌な目をしていたのを一生忘れないからね。
だけどこれ程までの美味しそうなご馳走を目の前にしているのですぐに忘れそう。
「遠慮しないで食べてくださいね」
「いただきます!」
テーブルマナーがあるのかもしれないが、それより空腹が我慢出来ない。
エルに促されるとすぐにフォークとナイフを手にして目の前にある料理をにがっついた。
「すごい食欲だな。これはアル坊に匹敵するぞ」
などと私の食べっぷりを見てゴルデスマンさんが驚いていたが、今の私には関係ない。
自分のお腹の中に眠っていた獅子が満足するまで喰らい続ける。
くそぽっちゃりだって必死に食べ続けてるし。
考えてみればここに来てからまともな食事をしていなかった。
口に入れるどれもが美味しく、どれもが私を幸福にさせてくれる。
「こんなに美味しいご飯は生まれて初めて」
「気に入って頂けたようで嬉しいです」
舌鼓を打つと、エルは安堵している。
もしかしたら、口に合わないかもしれないと心配していたのかな。
こんなご馳走、不味いと言う方がおかしい。
「エル様──」
もえぎ色をしたショートヘアのメイドさんがエルに近寄り、耳元で何かを話しかけている。
「ええっ!?」
それを聞いてエルは偉く驚いた。
初めて私を見た時よりも驚いてるような気がするんだけど。
「どうしふぁの?」
「おじいちゃんがここに来るそうです」
口に食べ物を入れたまま訊ねると、エルは返答し次第に顔が青ざめていくのが見てわかる。
「そんなに驚くことなの?」
おじいちゃんが孫を見に来るくらい普通にあることなのではなかろうか?
私の家も私が幼稚園に上がる前はよくおじいちゃんとおばあちゃんが来てくれたものだ。
うちに上がる時は決まって「真理愛、お腹は空いてないかい?」と言ってコンビニで買ってきたものを持ってきてくれていた。
おじいちゃんとおじいちゃん、元気にしてるかな。
「おじいちゃんは獣人が大の嫌いです。マリアは獣人ではないと伝えても耳と尻尾があるからここには来ないと思っていたのですが──」
「エル! エルは居るか!」
そわそわしているエルの言葉を遮るかのように扉の外からエルを呼ぶ大きな声がする。
その声だけで貫禄のある親父を想像させられるのだ。
この場合は親父ではなさそうなのだけど。
「お、おじいちゃん!? は、はひ! 今行きます!」
バネのように飛び上がり、扉の元へと小走りで向かっていく。
一体、エルのおじいちゃんとやらはどんな人なのだろうか。
自然と唾を飲んで身構える。
「ガハハ。久しいな、エル。元気にしとったか?」
「えぇ、まぁ……」
扉が開き、廊下には私の二倍はある横幅、背丈も二倍はあるかもしれない……髪の毛は存在しなくツルツルで、その代わりに顎にはそれはそれは大層なお髭がお生えになすっていた。
エルと少し似てて同じ青く澄んだ瞳。
如何にも王様って感じの赤いマントに茶色のズボンと白いワイシャツ。
体型はくそぽっちゃりに似てる。
これがエルとアルフレッドのおじいちゃんね。
獣人が大の嫌いと言うくらいだから怖い人かと思えば何とも優しい見た目をしていること。
「むっ、貴様が獣人モドキだな?」
楽しそうに孫と戯れているかと思えば、その光景を見ていた私を睨むような目で見つめ始め、近寄ってくる。
モドキって……確かにモドキだけどさぁ。
私はちゃんとした人間にモドリたいよ!
「初めまして、マリア・スメラギです」
食事中と言えど、流石に立ち上がり私は王様に頭を下げた。
淑女の場合、スカートの裾を摘んで頭を下げるべきだったかな?
「ゴルデスマンから話を聞いておったが、何ともまぁ礼儀正しい子じゃないか。ワシの名前はゼス・ガナファーじゃ」
髭を摩り何ともにこやかや笑顔を見せる。
ゼスオジと略させてもらおう。
「詳しい話を聞こうではないか」
ゼスオジは何やら更にニヤリも笑い、私はその笑顔に少し恐怖した。