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第13話 肖像画と医務室

 医務室に向かう最中、私たちは長い廊下を通っていた。何処までも続く赤い絨毯、時々現れるテーブルと高そうな花瓶。私を見ると怪訝そうな顔をして頭を下げるメイドさん。


「やっぱり獣人だと思われてるんだよね……」


 分かっては居るけど実に気分が悪い。

 まるでバイ菌でも見るような目なのだ。


「一応みなさんに話だけはしておきましたが、やはり簡単には理解してもらえないのでしょうね。すみません」


 名ばかりと言えど、こうも王族がぴょこぴょこと頭を何度も下げて良いのだろうか。

 私が謝らせてるようで何とも申し訳ない。


「ううん、エルが謝ることじゃないよ。いきなり刺されないよりかはマシかな、なんて……あはは──んっ!?」


 後頭部を右手で抑え苦笑いをして、何となく壁を見た。

 そこにあったのは一枚の大きな絵で、描かれていたのは、くそ女神様そっくりの肖像画だった。


「ねぇ。エル、これって?」

「この方が女神マリア様です」


 笑顔でそう教えられる。


 うへぇ、まさかのまさか。名前までくそ女神様と同じだとは思わなかったよ。

 でもなんか実際に見た時より更に若くて美化されている……ような気もするのは肖像画だからなのかな。


「どうしました?」

「ううん、早く医務室に急ごう」


 呆れた顔をしていると、エルに心配され声を掛けられる。

 ここで突っ立っていても再び憤りのない怒りが込み上げてくるだけなので、首を左右に振ってなんでもないことをアピールし、再び歩き始める。

 早く医務室に向かねば!


 ☆


「失礼しまーす」


 医務室のドアを開け、中に入る。

 中は木目調の質素な作りをしてきて、医療用のベッドが三台と左端に私の両手を広げたくらいの大きさの木製のテーブルと木製の椅子が一つ。

 それから木棚があり、その中には薬らしきものが置かれていた。


 くそぽっちゃりは真ん中のベッドに横たわっていた。

 体重が体重なせいで、ベッドが少し沈んでいる。

 それをゴルデスマンさんは腕を組んで眺めていた。


「ん、あぁ。エル坊たちか」


 声に気付いたゴルデスマンさんは私たちに振り返る。


「ゴルデスマンさん、分かりました!」

「何っ!? アナスタシアの居場所が分かったのか!?」


 分かったことだけを言うと、ゴルデスマンさんは目を見開き、これでもかと言わんばかりに驚かれる。


 あっ。主語が足りなかった。

 てかどうしてゴルデスマンさんはそう解釈したのだろうか。

 くそぽっちゃりの部屋に案内してくれって言ってたよね?


「すみません、そっちは分かりません。と言うか自分で探してください。これです!」


 また泣き喚かれると困るので、私は獣術が書かれている本をさっさと手渡した。


「ふむ、失った魔法……獣術か。マリア嬢ちゃんと違って手足まで獣になってはいるが、間違いないだろう」


 本を読み耽り、私たちを見ずに頷きながら喋っている。


「実際に、くそぽ……アルフレッド王子に獣術を使わせてみては如何でしょうか? 獣人に興味があるのなら自分が獣術を使って獣人みたいになればわざわざ会いにいかなくて済みますし。それで気も済むかもしれませんよ」


 心の中でくそぽっちゃりと言ってしまっていたので、言いかけそうになったが、慌てて言い直し、首を傾げて訊ねる。


「んー。そうしたいのは山々だが、これを見る限り解き方が載っていない。どうなるかも分からないから使わせることは出来ない」

「そんなぁ──」


 一定時間って書いてあるからか解き方が載っていない、解き方が載ってないのなら無闇に魔法を使わせることが出来ない。

 そういうことなのだろう。


 私が膝から崩れ落ちるほど落ち込むと同時に私のお腹の中の眠れる獅子が目を覚まし、高らかに咆哮を放つ。

 要約すると「お腹空いた」。

 レディとして有るまじき行為、ものすごく恥ずかしい。


「獣術に関しては追々考えるとして、まずはご飯にしましょうか。久しぶりに本を読んで頭を使ったので僕もお腹ペコペコです」


 エルは落ち込む私に駆け寄り、自分のお腹を摩ってお腹が空いていることをアピールした。

 それはきっと彼なりの気遣いでしょうね。


「ご飯!? オイラも食べる!!!」


 地震かと思わせる揺れが一瞬起きる。

 その原因はくそぽっちゃりだ。

 さっきまでベッドで眠っているかと思えば、"ご飯"と言うワードが耳に入ったのか飛び上がり一回転を決め、体操選手のように両手を上げ、綺麗に床へ着地をしていた。

 その体型でその身のこなし……エルの言う通り武術もそれとなくこなしていそうだ。

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