目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第19話 至れり尽くせり

 お風呂を済まし、夕食も貴賓室でエル、アルフレッドとご飯を食べて自分の部屋に戻ってくる。

 明日からはメイドさんが自分の部屋にご飯を持ってきてくれるみたい。


 流石にもう寝るくらいしか用事がないからかルナさんも「何かございましたらお申し付けください」と言って私の部屋から出ていく。

 何かあった時はベッドの隣にあるテーブルの上の呼び鈴を鳴らすだけでいいみたい。


「にしても色々あったなぁ」


 私はフカフカのベッドにダイブしてうつ伏せになりながは転生してからのことを振り返っていた。


 獣人に厳格な国、グラダラス。

 そこの国に転生させられ、私は何故か獣耳と尻尾が生やされていた。

 原因はあの毛むくじゃらっぽいけど、契約なんてしてないし獣術も使った覚えもない。

 それにヒックさんの使った獣術は失敗してたし、この世界に獣術と言う魔法が増えたかどうかも定かではない。

 ヒックさんも苦手魔法もあるし、使えない魔法も沢山あるらしい。

 私を致命傷から健康にしてくれていたので、てっきりなんでも出来ると思っていた。


「ふわぁ……」


 私は大きなあくびを一つすると、それを合図に心地よい眠りに誘われスヤスヤと眠ってしまう。


 ☆


「……よう、ございます」


 私を揺すりながら何かを喋っている声が聞こえる。


「おはようございます、マリア様」


 ゆっくりと目を開けるとまだ眠たいからか目の前にはぼんやりと映るルナさんの姿だった。

 気付けば部屋のカーテンは開けられていて朝日が差し込んでいた。

 改めてこの生活は夢ではなかったんだと思い知らされる。


「お、おはよう……ございます、ルナさん」


 上半身だけ起き上がり、目を擦る。

 あれだけ寝たのにまだ眠い。それに私は昔から朝に弱いのだ。


「お顔を洗います。目を閉じててください」


 そう言うと少し湯気が出ているタオルを手に持ち、私が目を瞑ると顔を洗い始める。


 ……何とも至れり尽くせり、悪くはないけどもう少し寝たかったね。

 お陰で目が段々と覚めてきたよ。


「ついでに歯も磨いてしまいましょう。口を開けてください」


 言われた通りに口を開ける。

 後頭部をルナさんの左手で抑えられ右手に持った歯ブラシで歯を磨かれる。

 何ともこそばゆい感覚だが悪くない。

 今度は水の入ったコップをルナさんが持ち、歯磨きをした要領で私の口の中には水が入る。

 その後は事前に用意してきたボウルの中に吐き出す……病人の域を超えて、このままベッドから動かない生活をし続けてたら私もぽっちゃりになってしまいそうだ。


「今、朝食をお持ち致しますね。それからはお勉強です」


 お勉強? つい首を傾げてしまう。


「常識について、です」


 そう言いながら部屋を後にする、ルナさんの表情が出会ってから初めて見せる微笑みだった。

 同時に私はこれからのことを思うと身構えてしまう。


 ☆


 朝ご飯を食べてから自分の部屋でルナさんにこの世界の常識をお勉強という形で教えて貰うことになった。

 私の部屋には簡易的な移動式の黒板が運び込まれ、今はそこの前にルナさんが立って永遠と講義を受けている。


 最初に教えてくれたのはグラダラスについてで、グラダラスの気候は年中通して暖かく、その気候を活かし農業や酪農が盛んな国らしい。

 人口はおよそ五千人。それだけ聞くと日本では程よく田舎の町、一つ分相当なのかな。

 年に一度豊作を願う祭りが開かれ、その時は街が人で溢れかえる程集まるのだとか。

 自分の目で確かめてみたいけど、この姿じゃちょいと厳しいよね。


 そして、この世界の常識をみっちり教えてもらい、今は魔法について学んでいた。

 と言うよりお願いして教えて貰っている。


 常識は聞き飽きたからね!


「──であるからにして、魔法の分類は火・水・風・土の基本四属性、それから光と闇、無属性の特殊属性、ドレミファソラシドの音階属性の十五に分けられます」


 喋りながらも書くスピードはめちゃくちゃ速い。

 すぐに魔法のことで黒板はいっぱいになる。

 私だけのために熱心になってくれるのは嬉しい……嬉しいのだけど。


 全部読めないんよ。


 絵も描いてくれているので、それを見て雰囲気で何となく理解するしか今は出来ない。

 常識よりは先に文字を教えてもらうべきだったかもね。


「音階属性?」


 初めて聞く言葉に首を傾げてしまう。

 ゲームなんかでは基本の四属性や光や闇、無属性なんかは聞いたことがあった。

 でも音階属性なんて聞いたことがない。


「マリア様もご覧になられていますよ」


 そう言いながらベッドの隣にあるテーブルに近付き、ベルを手にする。


「これは"ファ"の音を封じ込めているんです」


 チリン、とベルを鳴らす。

 すると、部屋のどこからか輪唱する音が聞こえた。

 ルナさんは自分の着ているメイド服のポケットから小さなベルを取り出している。

 どうやらそれが輪唱しているみたい。


「それって"ファ"じゃないとダメなんですか?」

「そんなことは御座いません。作り手の技量と、さじ加減でどんな音でもベルの中に封じ込めることが出来るのです」


 たまたまこのベルはファだった訳ね。

 でもなんか凄く……。


「便利だけど……何だか地味な魔法ですね」

「確かにこれだけなら基本四属性などと比べると地味かもしません。けれど、音階属性を使って精巧に作られた楽器などは貴族や商人などに好まれ高い値段で取引されているんですよ」


 どうしてなのだろう。

 やっぱりそういうニッチな産業はコアな人達に人気なのだろうか。

 元いた世界でも超高級なバイオリンひとつで余裕で家が建つ値段だったりしていた。


「全ての音階を使える人はそうそう存在しませんからね」


 と言うことらしい。


 ルナさんの講義は昼食も挟んで夕食になるまで続けられた。

 お陰でこの世界のことを何となく理解は出来た。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?