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第20話 契約魔法

 ルナさんがお勉強を教えてくれて数日が経過した。

 今日はルナさんがお休みらしく、お勉強をしなくても済む、実にいい日だ。

 その代わり、顔を洗ったり歯を磨いたりは自分でしなくてはいけない。

 元々一人でしていたから別に何とも思わないけど、面倒ではある。


「朝ご飯も食べたし、今日は何しようかなぁ」


 折角のお休みだけど、エルは最近何やら鍛錬に励んでいるらしく、朝も夜も帰りが遅いらしい。

 本人から聞いた情報ではなく、ゴルデスマンさんからなのだが。

 その指導をしているのはゴルデスマンさんらしいし。


 どうしようかな、なんて考えていると、ノックの音が聞こえた。


「はーい、どうぞー」


 エルかな?

 私が暇なのを知って急いで帰ってきたのかも。


「オイラだけど……」

「うげっ!?」


 ゆっくりとドアを開け、それは私の顔を伺っているようにも見える。

 私はそんなことお構い無しに変な声を出してしまった。


 くそぽっちゃりがそこには居た。


「あ、安心してくれ! 触ったりはしないから……触ったのがバレたらエルに何を言われるか……ううん、ゴルが何をしてくるか」


 ガタガタと身体を震わせ、この間のことを思い出しているように思える。

 首を絞められて青くなってたもんね、またあんなことをされると思ったら怖いんでしょうね。


「そ、そう? それならいいんだけど。私の獣耳と尻尾を見に来たの?」

「それもいいんだけど、ヒックの所に行かないか?」


 どうやら私が目当てじゃないみたい。

 でもヒックさんの所に行きたいってことは獣人か獣術目当てなのは間違いなさそうだね。


「いいけど……アルフレッド王子は大丈夫なの?」

「オイラのことは、アルでいいよ」


 訊ねると頷いてみせたので大丈夫なのかな。

 それより本人はエルのように呼んで欲しかったみたい。

 今思えばちゃんと会話をしたのはこれが初めてかもしれない。

 欲望に忠実なだけで悪い子ではなさそうだ。


「そっか。ならアル、行こっか」


 そうして二人でヒックさんが居るあの青い屋根の家へと向かうことにした。


 ☆


「この間はごめん! オイラ、獣人のことになると自分を抑えられなくなるみたいなんだ」


 二人で廊下を歩いていると、アルがいきなり頭を下げて謝る。


「う、ううん。初めはビックリしたけど、怒ってないから頭を上げて、ねっ?」


 こんな廊下のど真ん中で立ち止まって頭を下げられるだなんて思ってもいなかったので、ビックリした。


「オイラ……キミの力になりたいんだ! 何かオイラに手伝えることはないかな?」


 罪滅ぼしがしたい、そんな感じかな?


「先ずはキミ、じゃなくて、マリアね? 手伝えることって言っても今は特に思いつかないから後でいいかな?」

「もちろんだよ、マリア!」

「ありがと。それじゃ早くヒックさんの元に向かいましょうか」


 そうして私たちは再び歩き、再びくそ女神様の肖像画を通ってヒックさんの居る青い屋根の家に辿り着く。


「ヒックさーん! 遊びに来ましたー!」


 ノックをして大声で入室する。

 別に大声を出す意味はない、興奮で声が大きくなっただけである。


「やぁ、いらっしゃい……ちょっと待っててね」


 釜の中を木の棒でかき混ぜながら私たちに待ってるように言っていた。

 その釜は混ぜるのが大変そうで一周一周がゆっくりだ。

 この前見た緑の液体はトロトロじゃなくドロドロとしていてとてもかき混ぜづらそう。


 何の液体なんだろ?


「お待たせ。珍しい組み合わせだね」


 額にかいた汗を拭い、私たちを見てニコニコと笑う。


「お忙しいところすみません、アルがどうしてもヒックさんに会いたいらしくて……」


 アルは目と口をあんぐりと開き、私の方をただ見つめていた。

 あながち間違ってないでしょ。


「そこまでじゃないんだけど、オイラも魔獣と契約したいんだ」


 そこまでじゃない、と言う割には結構真剣な眼差しでヒックさんを見つめるんだね。

 私とヒックさんは目が合ってしまい、彼はクスクスと小さく笑う。


「アルフレッドくんも魔獣と契約して自分で獣術を使ってみたいんだよね?」

「ダメ……ですか?」


 笑いながら良いのかダメなのか分からないヒックさんの態度に少々萎縮しながらもアルは上目遣いで訊ねている。

 ちょっと見てて面白い。


「ううん、ボクは反対はしないよ。でもゴルデスマンがなんて言うか……そうだ! ボクはこれから街に出て薬を売ってくるから留守にするんだ。それでたまたまここには契約していないヤカカルタが一匹。後は分かるよね?」


 ヒックさんは不敵な笑みを浮かべ、部屋の隅で大人しくしていた黄色と黄緑色が混ざったヤカカルタが入ったケージをテーブルの上に置いた。

 ヒックさんがそれを手にするまでそこにヤカカルタが居たなんて知りもしなかったよ。

 それぐらい大人しいのだ。


「気に入ったらそのまま飼ってもいいし、飼うのが大変だな、って思ったら契約を破棄してもらって構わないからね」

「はい、ありがとうございます!」


 アルは頷き返事をし、頭を下げてお礼を言っている。

 契約破棄なんかも出来ちゃうんだ。

 私も破棄したら獣耳と尻尾は無くなるのだろうか。

 そもそも契約なんてしてないから無理か。


「マリアちゃんにはこれを」

「これは?」


 ヒックさんは私の前に来て、何やら色とりどりの宝石が輪を作っている、言わばブレスレットを私に手渡す。


「ちょっとしたお守りさ。何となくキミに持っていて欲しい気がしたんだ」


 常に笑みが絶えないヒックさんだから彼が何を考えているのか分からないけど、貰っておいた方がいいのかな。


「は、はぁ……ありがとうございます?」

「それじゃ、また後でね」


 私の疑問形のお礼を特に気にすることもなく、ヒックさんは家を後にして私とアル、そしてヤカカルタだけになった。

 早速貰ったブレスレットをはめてみる。

 そこまで重量感もなく、ずっとはめていても疲れなさそう。

 何よりオシャレで気に入った。


契約コンタクト


 ヒックさんが居なくなってすぐにアルは何かを口にして、ヤカカルタに触っていた。

 すると、アルとヤカカルタが青く光り始める。


 これが契約魔法と言うやつなのかな?


 なんて考えているとすぐに青い光は収束する。


「よし、契約完了っと。よろしくな、ピヨヒコ!」


 ケージからピヨヒコと名付けられたヤカカルタを取り出すと人差し指で頭を撫でて楽しそうにしている。


 きっと獣術が成功しても失敗してもこれから飼うことにしたのかな。

 それにわざわざ契約されていないヤカカルタを用意してたってことはヒックさんはアルがここに来て自分も獣術を使ってみたい、と言うのを分かっていたのかもね。


「さぁ、外に出て試してみようか、マリア!」


 私がうんともすんとも言わないうちにアルはピヨヒコを連れて外に出ていった。

 まぁ私もそれに続くんですけどね。

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