「大丈夫? 怪我はない?」
目の前にはヒックさんが居た。
安心して大量の涙が再び零れ落ちる。
「うぐっ……わ、私、怖くて……ヒックさんの家が燃えちゃって……」
「うんうん、よく頑張ったね。偉いよ」
そう言いながら頭を撫でようとしてくれていたが、先日のことを思い出してか撫でようとはしなかった。
あの時はアルが居たから触って欲しくなかっただけなんだけどね。
「今、暖かい飲み物を用意するね。落ち着いたら起こったことを教えてもらうからね」
イスを二人分用意すると、ヒックさんは近くにあったキッチンへと向かう。
この部屋はワンルームでベッドとキッチンが備え付けられてあった。
辺りを見渡しているとさっきまでの恐怖は段々と薄れ始めてくる。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
ヒックさんからカップを受け取る。
中はミルクのようで持っているだけで暖かいので落ち着くね。
「それで、何があったかもう話してもらっても大丈夫かな?」
「は、はい。実は──」
アルがヤカカルタと契約して獣術を使おうとしたけど失敗したこと、それから別れ、私はヒックさんの部屋でヒックさんの帰りを待っていたらガイアスが現れたこと、そのガイアスが私の言葉を聞く耳持たず、宮廷魔術師が私を匿っていると難癖をつけて家を燃やし始めたこと、起こったことを事細かに伝えた。
「ふむ……ガイアスかぁ。昔からガイアスは苦手なんだよねぇ。何を考えているのかよく分からなくて」
「知り合いなんですか?」
腕を組みながら私の話を聞き、彼のした行動が読めず、眉間に皺を寄せていた。
昔から、と言う言葉が気になったので訊ねてみると、返ってきた言葉は意外なものだった。
「うん、ボクとゴルデスマン、それにガイアスも同じ学校の出身で同い年なんだ。と言ってもボクは魔術科、二人は戦術科だけどね」
「うえっ!? ヒックさんとゴルデスマンさんが同い年!?」
「ふふっ、ゴルデスマンが聞いたら悲しむだろうね。こう見えてボクたちはまだ二十一だよ」
驚いた……同い年ってだけじゃなく二十一歳だったとは。
人は見掛けによらない、とはこのことを言うのだろうか。
ゴルデスマンさんのことを思いっきりオッサンだと思っちゃってたし。
「そうだったんですね」
「うん。ついでに言うとアナスタシアも魔術科で同い年だよ」
「は、はぁ……」
ゴルデスマンさんとアナスタシアさんは学生の時から知り合いで、その時から付き合っていたのだろうか?
凄く気にはなるけれど、今はそんなこと聞ける余裕はなさそう。
「このことをゼス王に相談すべきなんだろうけど、生憎彼はグラダラスを出ていてね。帰ってくるのは一週間後になりそう……だからこそマリアちゃんを狙ったのかもしれないね」
話を聞きながらミルクを一口、甘くて美味しいね。
このままずっと現実逃避をしていたい、だけどずっとはダメだよね。
「やっぱり獣人だと思っているのでしょうか?」
「多分ね。昔はそこまで獣人嫌いじゃなかった気もするんだけど、この国の熱気に当てられてしまったのかな」
はぁ、と小さく溜め息を吐き、頭を抱えていた。
私を処刑しようとしていたあの熱気を思い出し、確かにあれを浴び続けていたらおかしくなってしまいそうだった。
それと同時に私はある疑問をまだ聞けていないのを思い出す。
「どうして獣人がこの国では異端なんですか?」
「……エルくんかゴルデスマンが教えているかと思ったけど、知らなかったんだね。いいよ、ボクが知っている限りは教えてあげる」
教えられていなかったことを呆れているのか、それとも教えてあげてない人を呆れてるのか、それともその両方か。
どちらにせよ一度呆れ顔をしてからいつものニコニコとした表情に戻る。