「さてと、本人が家に居ないのに物色するのは少しはばかられるけど、始めますかっ!」
言葉ではこうは言っているが本当は内心ワクワクしている。
他人のお宅訪問とか、芸能人のお宅紹介とか好きで結構見ていたからね。
自分の部屋にないものを見つけると興味が湧くし、同じものがあったりすると親近感が湧く。
でもこの世界で私は同じものを持ってはいない。
なので今は興味しか湧かないのだ。
一体ヒックさんはどんな物を持っているのだろうか。
「先ずは釜かな!」
数分前までグツグツと煮えていた釜に近付く。
近付く度になんとも言えない草の臭いが鼻を刺激する。
まるで草原を口の中に放り込んだみたい……放り込んだことないんだけど。
……実に近寄り難い。
でも何を作っていたのか気になるで近寄る。
「紛うことなき緑──」
「獣人が居るぞ!!!」
玄関から大きな声を上げる者がいた。
そして、私の知っている人………………くそパーマ男だ。
彼は腰に携えていた剣を抜き、私に矛先を向ける。
「だから私は獣人じゃないって言ってるでしょ!」
「この期に及んでそんな嘘を……皆の者、ヤツは洗脳魔法を使ってくる。気を付けろ!」
「──ハッ!」
私が大声で身の潔白を主張するも、くそパーマ男……名前は確かガイアスとか言ったっけ? ガイアスは私の言葉なんて一切聞き入れることはなく、後ろに居た兵士たちに注意を促していた。
兵士たちはガチャりと鎧を鳴らしそれぞれ頷いている。
銀色の鎧を頭から足のつま先まで、所謂フル装備をしているので顔色一つ伺うことは出来ない。
だが、誰しもがガイアスの言葉に疑問を抱いていないようにも思えた。
「宮廷魔術師もヤツを匿っているはずだ、構わず家に火を放て!」
「──ハッ!」
ガイアスの後ろに居た兵士たちがドカドカと家の中に入り、壁やテーブルなどに手のひらを向け、何やら呪文を唱え始める。
すると手のひらからは火の玉が発射され、燃やし始めた。
その炎が前世の私が体験した死ぬ直前をフラッシュバックしてしまい、足はガタガタと震え上がり動けなくなってしまう。
「やめて……お願いだからやめてよ……」
無理やり出した声は苦しく、目からは涙が零れ落ちる。
だけどそんなことお構い無しで彼らは破壊活動を続けた。
段々と家の中は熱くなる、酸素も無くなってきたのか呼吸も思うように出来なくなり、意識が遠のき始める。
『マリアちゃん──』
私の腕に付けているブレスレットから声がする。
幻聴かと思えたが、ブレスレットに付いてある宝石が一つだけ輝きを放った。
私は余りにも眩しすぎて目を瞑る。
すると、呼吸は苦しくない。
それに、熱くもない。
恐る恐る目を開けると、誰かの家に居た。
ヒックさんの使っている家ではない。
カーテンは締め切ってないし、明るいのだ。