二日のお休みが終わり今日は登校日だ。
ここ二日はご飯はミレッタが私の部屋に持ってきてくれていたのでトイレもお風呂も備え付けてある私の部屋から出ることはなかった。
なので今日はミレッタが起こしに来るであろう時間より少し早く起き、シロムを肩に乗せてラウンジへと急いだ。
きっとミレッタが迎えに来ると思ったのでドアには貼り紙を付けておいたし迎えに来ても問題ないよね。
「マリア様、おはようございます」
ラウンジに着いて一足先にご飯を食べようとしていると女の子に声を掛けられる。
それはゴウとの決闘を応援してくれたショートの紫色の髪をした女の子だった。
私の記憶が間違っていなければ、様付けなんかせず普通にマリアと親しく呼んでいたはずなのだがくそ女神様と名前が同じせいで間違ってしまったのだろうか。
「さ、様?」
堪らず私は聞き返してしまう。
「はい! マリア様で間違いありません。先日は危ない所を助けて頂きありがとうございました」
一度元気に頷くと深々と頭を下げられた。
その光景に私は一瞬、疑問に思う。
先日? あー、あの時くそ花に掴まれていたのはこの子だったんだね。
助けなきゃと必死だったもので誰が掴まれていたなんて知りもしなかったよ。
「最終的に助けたのはセシリーとミオなんだけどね」
「いえ! マリア様が蔓を切ってくださらなければ今頃どうなっていたことか……」
「そ、そう? それより怪我はなかった?」
「見ての通り元気です!」
自分の右頬をかき少し困ったように答え、身体は大丈夫なのか訊ねると、彼女はなけなしの力こぶを作り元気なことをアピールした。
「なら良かった。でも様付けはやめてね?」
「はい! マリア様」
無邪気な明るい返事で返される。
ん??? 様付けをやめてと言ったのにそのままってことは、もしかしたらマリア様々と呼ばれていたのかも?
なんて馬鹿馬鹿しい思考はやめ、ミレッタといつも座っている席に座り一足先に朝食を頂くことにした。
うん、美味い。朝から食べる寮のパンは前世で食べていた物より何倍も美味しい。
まぁ前世の食べていたパンは工場で大量生産されている激安のパンだからでしょうけど。
そんなことより私を見てご飯を食べている人の視線がチクチクする。
それは哀れみと言うより憧れに近しいもので「マリア様と目が合いました!」「俺もマリア様と同じのを食べる!」と声を抑えて喋っている人も居るが今日も今日とて私の獣耳はしっかり会話をキャッチしている。
「も、もしかしてあの魔物を倒したからなの?」
美味しそうに煮干しを食べているシロムに問いかけてみるがお腹を空かしていたのか主である私の質問に答える素振りは一切なく黙々と皿に入った煮干しをがっついているだけ。
「なんともまぁ──」
「ま、マリア! ハァハァ、探しましたよ……」
シロムの行動に呆れ返っていると、血相を変えたミレッタが私の元に向かって走ってきて手にはドアの前に張った紙切れを持っていた。
「そんなに慌ててどうしたの?」
「今日もいつものようにマリアの部屋に行ってみたら見たことのない文字が書かれた貼り紙があってマリアが拉致されたのかと思いましたよ」
私が不思議そうに首を傾げて訊ねると前のめりになりながら脱力させ紙切れを見せる。
「見たこと──ああっ!?」
完全に気が抜けていた。
ミレッタの手にしている紙切れにはこの世界の言語ではなく、日本語でデカデカと書かれてあった。
急いでミレッタから紙切れを奪い取るとすぐさまポケットに仕舞う。
「これは私の国だけが使う言語なの。何処の誰かってバレたくないから見なかったことにしてくれるかな?」
ミレッタだけに聞こえるよう彼女に近寄り小声で呟く。
それを聞いてミレッタは目を丸くしてこくりと静かに頷いた。
王立魔法学園に通う王族や貴族たちは自分の地位をおっぴろげるが地位も名誉もおまけに胸もない私は何処かの国のお姫様と言う謎に包まれたままでいなければいけない。
それを利用して我ながら都合のいい言い訳を言えた気がする。
バレた時は軽蔑されてしまうのかな。
ただでさえ獣人モドキなのがバレたら引かれてしまいそうなのに。
「わ、分かりました。そうとは気付かずにごめんなさい!」
「ううん、ミレッタが謝ることじゃないよ。私が悪いんだし。それよりご飯食べよ?」
この話はこれでお終いと言わんばかりに私はミレッタもご飯を食べるように勧めた。
そうしてまた数日間、学園が始まりを迎える。