目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第53話 アーティファクト

「マリア、今日はセシリーさんたちと一緒に街に──」

「ごめん! 今日は外せない大事な用があるの!」


 いつものようにミレッタと二人で朝食を食べている。

 ターシャさんのお店に行ってから数日が経過した。


 今日はお休みなのでミレッタはセシリーとミオ、それから私を誘って街に遊びに行きたそうにしていたのはここ数日でヒシヒシと伝わってきていた。

 ……伝わってきてはいたのだが流石に約束をしてすぐにもうあの店に行かない、なんて私の大きな大きな心の良心が痛む。


 なので手を合わせて拝み倒すようにして誠意を見せ謝る。

 私の行動に驚きを見せ、ミレッタは反るようにしてビクつかせていた。


「そ、そうですか。それならまた今度一緒に行きましょうね」

「うん。また誘ってくれたら嬉しいな」


 残念そうなミレッタの顔を見ても私の良心が痛むね。

 だけど今度のお休みは行かないつもりだからその時はみんなで一緒に出掛けようね。


 などと考え私たちは朝食を済ませると私はすぐさま寮を出る。

 その際に恒例になりつつある「マリア様、ごきげんよう」の嵐を掻い潜り行き先が誰にもバレないよう遠回りをしてからターシャさんのお店に辿り着いた。


「おはようございまーす」


 お店のドアを開け薄暗い店内にやってくる。

 前回は背後をとって怪しさ全開だったけど今回はひっそりとカウンターにある椅子に座り私が来るのを待っていたのかな、なんて思わせる。


「おはよう。そろそろ来る頃だと思ってたよ。早速だが工房に向かおうじゃないか」


 言うより動く方が速かった。

 先日のように私の手を握るとあっという間に工房に私たちは辿り着いていた。

 カウンターの裏口に行けばすぐにある工房。

 時間にして三十秒も掛からない……掛からないのは分かっていても老婆なうえに私の手を引っ張りやって来るのにはもっと掛かっても良さそうなんだけどね。


「今日も魔法の糸作りですか?」

「んや、今日は魔石を加工してもらおうかと思う。昨日大量に注文が入ってな、どうも歳のせいか一度に沢山は作れなくなってしまってね」


 てっきり今日も魔法の糸を作ると思いきや今日は魔石を加工するらしい。

 編み棒を使ってやる作業では無いので私に魔石を加工する才能があるかどうか心配になったが、それよりもターシャさんの身体が心配になってくる。

 でもよくよく考えて欲しい。私を軽々と工房まで引っ張ってきたくせに"歳のせい"だなんて言い訳が通ると思っているのだろうか?


 まぁ何にせよ物は試しという言葉もあるしやるだけやってみようかな。

 ダメだったらターシャさんに丸投げして私は魔法の糸を作る!


「分かりました。それで私は何を?」

「これを使って魔石を賽の目状に削ってくれないか」


 手渡されたのは前世でもお馴染みのサンドペーパー、言わば紙やすりだ。

 実に原始的な方法に少し乾いた笑いが溢れ出ようとするが必死に抑え、ターシャさんから紙やすりを受け取ると椅子に座りテーブルにある不格好な魔石をゴシゴシさせ賽の目状に形成していく。

 今回は椅子がもう一つ増えており隣にはターシャさんも同じように魔石を削っている。


 特に難しいことはない。

 ただ只管に、ただただ無言で魔石を削るだけ。

 簡単だけど飽きてくる。


「ターシャさんはどうして魔道具のお店を始めたんですか?」


 なので気になっていたことを聞いてみることにした。


「夢があったんだ。魔道具店を開きながらいつかはあたいもアーティファクトを作ってみたい、って夢がね。だけど自分にはそこまでの才能がなくて今ではこのザマさ。まぁせめてマリアに魔道具の作り方を伝授させるのが今の夢だね」


 魔石を削る手を休め、私を見る訳でもなくターシャさんは天井を見つめ儚そうに夢を語っていた。

 だがそれは昔のことのようで手を広げ両手でブイの字の形をとって嘲笑し、今の夢は私に魔道具の作り方を伝授することだった。


 魔道具の作り方を教えてくれるのは嬉しいけど伝授まではいいかな。

 それよりもアーティファクトって私が左手に身につけているやつだよね。


「アーティファクトってどんなものなんですか?」


 身につけておいて何も知らないので訊ねてみることにした。


「おや、アーティファクトも知らないのかい? アーティファクトって言うのはね、簡単に説明するなら魔道具の上位互換、みたいなものかね」


 魔道具の上位互換……ターシャさんでも作れない物をヒックさんは平然と私に渡してきてたよね。

 改めてこのブレスレットは大切に扱わないといけないな、と思い知らされた。


「ちなみにお値段とかは……」

「ゆうに金貨千枚は越える」

「せ、千枚!?」


 軽はずみで値段を聞くんじゃなかった。


 私は椅子から転げ落ちそうになりながらもターシャさんの言葉に驚く。

 だって金貨千枚だよ!?

 私は常にそれだけの大金を身につけながら歩いていると想像するだけで冷や汗が止まらない。


「使い方が分からないガラクタでその値段さ。用途が分かっている物ならばその十倍は容易い」

「じゅ、十倍……」


 ボンボヤージュ、みたいな発音で驚いてしまった。


 アーティファクトくん次元が違いすぎるでしょ!

 認識阻害に通信、それからワープなのか転移なのか分からないけどどちらかの機能。

 私が分かっているだけでもこれほどの機能があるので金貨一万枚はゆうに越えそうだ。


「大抵のアーティファクトは遺跡やダンジョンから出土されるのだが、マリアも市で見かけたら買ってみるといいさ」

「は、はぁ、考えておきます」


 市かぁ。前世だと海外なんかでは市が賑わってたりしてて行ってみたかったんだよね。

 この世界でも同じように賑わってるのかな?

 んなことより市でアーティファクトを見つけたとしても今の私ではひとつも買えないのは明白だよね。


 ──それよりも気になることがあった。


「でも遺跡やダンジョンで出土される物を作ることが出来るのですか?」

「分からないから試して見たくなったのさ。今度時間がある時にあたいの自慢の逸品を見せてやるよ。用途の分からないアーティファクトよりはよっぽど価値があるはずさ」


 私の疑問に分からないからこそ試して見たくなったと言うチャレンジ精神があったこと伝え、自身の作った自慢の逸品は用途の分からないアーティファクトよりは価値があることを自信満々に教える。


「本当ですか!?」


 お店に並んでいる以外にも魔道具があって、しかもターシャさんの力作だと聞くと一体全体どんなものか楽しみになるね。


「あぁ。さ、今は魔石を削るよ!」


 休憩はお終い、と言わんばかりに私の背中を強く叩き気合いを入れ、魔石を削るという単純作業を再開する。

 相変わらずターシャさんの力強さは老婆とはかけ離れてて痛い。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?