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第56話 本格的

 前回は魔法の木箱と空気清浄機のような機能が兼ね備えられている観葉植物を貰った。

 それからターシャさんの好意なのかいつの間にか沢山の加工された魔石と加工されていない魔石、加工されていない魔石を削るための紙やすり、それから手紙が木箱の中に入っているのに帰ってきてから気付いた。


 手紙の内容は"あげるから好きに使うがいいさ"とだけ書かれていた。

 金貨も前回の倍は貰っているのにここまで椀飯振る舞いされるとなんか申し訳なくなってくるね。


 ありがたく貰うけど!


 なんとなく気分は久しぶりにおばあちゃん家に行った孫のようだ。

 帰りにはお金をくれたり両手に持ちきれないほどのお菓子をくれたり、そんな感じ。


 そんなことがあった次のお休みの日。


「今日は本格的に魔道具の作り方を教えようと思う」


 本当はターシャさんのお店で働いているがミレッタには私が習い事をしていることを伝えたら今日は街に一緒に出掛けようと誘われず二人で朝食を食べていると「習い事、頑張ってください!」と輝かしい目をさせて私を見つめてきたのが印象的だった。

 朝食を食べ終えると私は前回と同じように部屋の窓から外に出てターシャさんのお店へとやってきた。


 すると、挨拶もろくにされずに開口一番にそう言い放たれたのだ。


「は、はぁ?」


 前回沢山貰ったのでそのお礼を言おうと決めていたのだが本格的と言う言葉を聞いて全て吹っ飛んだ。

 本格的とは一体全体どういうことを意味しているのか分からない私は首を傾げて返すだけ。


「すぐに分かるさ」


 不敵な笑みを浮かべ工房がある方へと歩いていく。

 このまま立ち尽くしている訳にもいかないので私もターシャさんの後に続いた。


「マリア、あんた魔法は使えるんだろ?」


 工房に着くなり後ろを振り返り私を見て訊ねてくる。


「さ、三歳児以下なら」


 顔を引きつらせながら私は答える。


 本格的ってそういうことか!

 確か初めてターシャさんのお店に来た時に"高度な物は魔力を必要とするものもある"って言ってたのを思い出した。


「まぁ魔力がないよりはいいかね。これに魔力を流してみてくれ」


 手渡されたのは始めて来た時に使った編み棒だった。


「マリョクヲナガス?」


 編み物を受け取りながら聞き慣れない言葉に面をくらい私はカタコトになってしまう。


 今まで魔石を頼りにして魔法を使っていたので魔力を流す、なんて行為はしたことがなかった。

 魔石を使わなくてもだね。


「いつも魔法を使う時のように手に力を込めるんだ」


 精神論で語ってくる熱血教師の如く、ターシャさんは何一つ理解出来ないアドバイスを口にする。


 手に力を込めろって言われてもね……まぁ、やってみますけど。


「……あっ」


 編み棒を持っている手のひらがじんわりと暖かくなりその熱が編み棒に伝わっていくのが感じる。


「出来たみたいだね。やはりマリアは才能があるねぇ。さぁ、そのまま魔法の糸を作ってみてご覧」


 今度は糸を手渡される。

 すごい今更だけどもう既に糸になっているのでこれが魔法の糸なのではないか? なんて疑問が生まれるが口にはせずに言われるがまま編み棒を使っていつも通りに編み込んでいく。


「この前よりやりづらい?」


 前世と比べて手が小さいのでそう思うのかもしれない。

 でもそれだけじゃなく糸の質があまり良くないようにも思える。

 ガサガサと言うか綿糸ではなく麻糸で編み物をしているような感覚だった。


「魔力を通した糸は扱いづらい。だがある程度の火力の魔法ならば燃やすことは出来ない」


 ターシャさんは私に教えながら自分も編んでいてそれを編むのを止め、左手に持つと右手にはターシャさんの顔より見た賽の目状の赤い魔石を手にし、なんの躊躇いもなく編んでいた物を燃やし始めた。


「え、ちょっと!?」


 いきなりの行動に私は椅子から飛び上がるほど驚いてしまう。


 ある程度の火力なら燃やすことは出来ないらしいが、魔石から放たれる炎は火炎放射を彷彿とさせてしまうほどの威力だった。

 熱風がこちらにまで伝わってくる。


「ほら」


 魔石を使用するのを止め、ターシャさんは私に焼かれていた布を手渡してくる。

 ほんのりとした暖かさはあるにせよ布が焦げて臭い、なんてこともボロボロに焼け焦げてしまっている、なんてこともなかった。


「……す、凄いですね。私のでも同じようになりますか?」


 少し引き気味で驚き、訊ねる。


 これなら炎で焼かれても怖くない。

 もうゴウとは決闘することはないと思うけど、あの時に知っていれば炎は全然平気だったね。


「無理だろう。あたいがここまで会得するのに二十年は掛かった。あたいが生きているうちにマリアがここまで成長してくれると嬉しいねぇ」


 私の編んでいた布を手にし、表裏を何度も見て私が作った物ではさっきの炎は耐えられないことを伝えられる。

 それと同時にターシャさんがこの領域になるまでに二十年もの歳月を要したこととターシャさんが生きているうちに私もここまで成長して欲しそうにしていた。


 いや、無理でしょ。

 先にターシャさんの寿命が来るのが先だろうね。


「が、頑張ります」


 とは言えず私は苦笑いを浮かべて再び編み物を再開するのであった。

 魔力を流して編み物をしていたので、よくよく考えれば結果は見え透いていた。

 魔法を使うのと同義な訳でして、私の魔力はすぐに空になり貧血に近い症状に襲われ、私は机に突っ伏して眠ってしまった。

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