「それでは、ゴブリンキング戦、向かいます」
「はーい」
「よろしく」
「らじゃー」
三者三様の挨拶で返してくれる。
俺、ハズキさん、ミハエルさん、エリスさんの四人は森へ再び向かう。
今回はムルリックさんやマミさんは連れてきていない。
マミさん情報からするとたぶん四人でも大丈夫だろうとのこと。
本当、情報屋ってのは助かる。
ゴブリン達を倒しながら森をさらに深くへと移動していく。
かなりの距離歩いてきた。
森はより鬱蒼とした表情を色濃くしており、なんというか不気味だ。
気持ち針葉樹よりも広葉樹が多くなってきて、原生林っぽくなってきた。
地面もなんだか苔むしていて、人里から離れているのを感じる。
深い森のはずだけど、獣道なのかゴブリンキングが通った後なのかあちこちに細道が繋がっている。
道を選びつつ、先へ進む。
「がるるるるうるる」
「で、でたーあああ」
ハズキさんがびくっりして叫ぶ。
「きゃあああーーー」
こちらはエリスさん。普通。
「よしやるぞ」
「おお、みんな、よろしく」
「「「おお」」
出てきたのは緑の皮膚の亜人。
悪そうなひどい顔つきに少し尖った耳。
ハゲ頭にしわくちゃの顔。
ここまでは普通のゴブリンと同じだ。
背丈は俺たちよりかなりデカい。
ゴブリンとの決定的違いは背丈だった。
普通のゴブリンは俺たちより小型だから。
上半身裸で下半身には藁を巻いていた。
手には、棍棒だろうか。
ロングソードとかよりは簡単に戦えそうだ。
これでカタナとかだったらけっこう危険かもしれない。
「いよいよお出ましね」
エリスさんが指を突き付けてビシっと決める。
「ゴブリンキング戦、開始」
「うおおおお!」
「おりゃああ」
ゴブリンキングは右手で棍棒を構えている。
棍棒を上段から振り下ろしてくる。
これが第一段モーションだそうで、いわゆる通常攻撃だ。
背丈があるため、かなりの圧迫感がある。
ゴブリン社会でも右利き優勢論があるんだろうか。
人間の場合、九割程度が右利きとされる。
たぶん脳の構造とかの関係だと思われる。
社会的に右利きの人もいるが、ゴブリンはどうだろう。
とりあえず四人いるので、半円形に広がって囲む。
棍棒は一度に一人しかターゲットにしてこないので、その人は回避。
残り三人はその隙に攻撃を一手入れる。
「次、ハズキさん」
「りょ」
「うりゃあ」
「いえやあ」
「とりゃ」
どおおおんと棍棒が落ちてくる。
棍棒が地面に激突して砂煙を上げる。
かなりの迫力だ。
ハズキさんは回避に専念、他の人は散開して攻撃だ。
とまあ連携して対応に当たる。
パターンがある間は簡単で、対応マニュアル通りに戦闘を続けた。
敵がデカい分、ビビってしまうけれど、みんな恐怖心は抑えられているのか、なんとか回している。
敵のHPゲージが一定値まで減ったところで、動きに変化が訪れた。
「がるる」
「くるぞ、全体バック」
「りょ」
「「「おう」」」
一歩、二歩と下がる。
ゴブリンキングは鳴き声を上げ、右手の棍棒を右斜めに構えて溜めに入った。
そして一閃。ぐるりと横薙ぎの範囲攻撃を仕掛けてくる。
俺たちはもちろん情報通りなので、これを避けきる。
「情報通りだ、さすがマミさん」
「マミ姉のおかげだぜ」
「姉なのかしら」
「さあ」
一見小さく年下にも見えるがさてはて。
みんなで避けきり、カウンターを一撃入れる。
順調にゴブリンキングにダメージを与えていく。
「がるぐるる、ぐあああ」
今度は軽く咆哮。
この後の情報もあった。
ランダム叩き、いわゆるモグラたたきだ。
地面を棍棒が叩くたびに再び砂煙があたりに漂う。
「くるぞ」
「お、おう」
全員上を見て棍棒が誰の上の上がるかを見極める。
「きた」
「回避!」
「らじゃー」
さっと棍棒から距離を取り、なんとかかわせる。
そして隙をついて、攻撃力の高い鉄の短剣でダメージを与えていく。
他の人もゴブリン鉄にランクアップしているので、それなりに攻撃できるはずだ。
ゴブリンキングといえども、モンスターだ。
モンスターである以上、俺たちに狩られる存在なのだ。
俺たちが餌側になるわけにはいかない。
ゴブリンキングのHPがいよいよ残り少なくなり狂乱状態になって、むやみやたら攻撃してくる。
「くっ、もう少し、みんな頑張ってくれ」
「おおう」
「いくわよ」
「いっけえー」
敵をかわして合間合間になんとか攻撃を打ち込む。
全員だいぶ疲れてきているが、敵ももう少しというところだ。
ゴブリンキングも武器を振り回しているが、狂乱状態になってから狙いが甘い気がする。
気のせいではないのだろう、ターゲットがあいまいになっているのだ。
それでゴブリンキングの攻撃は空振りが多かった。
まあ最後の悪あがきといったものだろう。
ダメージを受けてしまった時には、すかさずハズキさんかエリスさんがヒールを飛ばしている。
これなら俺たちは大丈夫だろう。
こうしてHPを徐々に削っていき、ついにその時が来た。
「ハズキさん、ラストアタック」
「わかったわ」
「では、ラスト……」
「――アタック!」
俺とハズキさんのワンツーフィニッシュがゴブリンキングに深々と突き刺さる。
ゴブリンキングはパーティクルになって消えていく。
「やった!」
「勝ちましたね」
「俺たちの勝利だ、乾杯!」
「やったね!」
みんなで勝鬨上げたのだった。
みんな、一斉に、座り込んだのだった。
座ったまま両手を上げてガッツボーズをしたりしている。
その疲労感はかなりのものだけど、勝利の喜びも負けないくらい強かった。
ついに、あのボスに勝ったのだから。