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19. トリントン村


 またゲーム内。

 そうそうスライムちゃんの販売なのだが、今スライムを取りに行くほど暇ではないという感じで全然進んでいない。

 そこへ情報屋が専門のマミさんが合流したことで、進展を見せた。

 つまりマミさんがスライムのテイム方法を販売したのだ。

 もちろん秘密にしてくれそうな人限定だけれども。

 そうして、いくらか収入が出ていた。

 いわゆるライセンスというやつだ。

 ホーンラビットもそうだ。


 それで最近はそういう第二陣のプレイヤーがテイムしたスライムとホーンラビットがバザールで安価に販売されている。

 まだ需要はあるみたいで、けっこう売れているようだ。

 そのマージンが回って俺たちの収入になっているというわけ。

 マージンなんて一人ひとりは少ない金額だけど、それが十人、二十人ってなるとそこそこの金額になってくる。

 情報を売った俺とハズキさんは毎日ニヤニヤしておりますよ。


「にしし」

「にしし、だねぇ」


 俺とハズキさん、二人して顔を見合わせては悪い笑顔を浮かべちゃったりしたのだ。


 ゴブリンもテイム出来るという噂だけどあまり可愛くはない。

 売れるのかは未知数だな。

 ただ、一部の農作業とか鍛冶とかのプレイヤーは助手として手がついてる人型モンスターを必要としていることがあるので、安価に入手できるなら欲しがるかもしれないという。

 ゴブリンの好物ねぇ? なんだろう。蜂蜜とかかな、分からんけど。

 同じ人型でももっとかわいいモンスターとかいらっしゃいませんかね。

 そういえばボスのテイムは難しいという話だった。


 俺たちは森を攻略して次は、王都から見て東側にあるトリントン村へと進んだ。


「どれどれ、村~村~」

「トリントン村だよ」

「ふーん」


 俺はまたハズキさんとペアになって進んでいた。

 小さな村だ。まだプレイヤーらしき人はいない。

 マミさん情報が少しあったので、一番乗りではなさそうだが、気分はいい。


 家が数軒ずつぽつぽつと建っている。

 大型犬が一匹、猫が二匹、そしてニワトリが三羽。

 水車小屋が一軒あり、間々には畑が広がっていた。

 家畜小屋のある酪農家も一軒。

 長閑で清々しい。


「ハズキさん、いいところだね」

「だよねぇ」

「ふぅ」

「都会育ちだと、憧れだよね、こういうところ」

「うんうん」


 リアルのハズキさんちってどのへんかな。

 発音はいつも聞いている感じでは同じ関東圏かなって思ってるんだけど。

 そのあの……デートとか、一緒にしてくれないかな。

 俺にはじめてめぐってきたチャンス。

 タイミングを見計らって今度、誘ってみるか。うーむ。

 あんま柄ではない。というか引きこもりニートには荷が重すぎる。

 陰キャにデートとか、ねぇ、難しいよね。やったことないもの。


「ハズキさん注目」

「はーい」

「トリントン村では、村の小ささを利用して、クエストを出来る限り受けます」

「なるほど?」

「レアなクエストで、レアアイテムをゲットして売るのが目標です」

「わかったわ」

「目指せクエスト制覇だ」

「了解。一緒に頑張ろうね!」

「お、おう」

「お、照れちゃった、ウルさん、かわいっ」

「ハズキさん……」


 といっても普通のゲームみたいにいわゆる「クエスト」が実装されているわけではない。

 ゲーム中でNPCから自然発生した「お願いごと」「困りごと」などをクエスト扱いしているだけだ。

 だから、プログラマが仕組んだなんちゃってお使いクエスト群はないのだ。


「こんにちは、なにかお手伝いできることはありませんか?」

「そうさね。うーん、雑草抜きくらいかしら」

「分かりました、手伝います!」

「じゃあ、こっちの畑だけだから」

「はーい」


 こうして二人でおばあさんの畑の雑草抜きを手伝う。

 雑草と呼んでいるが、中には薬草なんかも混ざっている。

 ダイコンやニンジン、ハクサイから見たら雑草という扱いなのだ。

 こういう薬草はアイテムボックスに放り込んで保存しておく。


 けっこう腰をかがめたりして体勢が難しい。

 リアルだったら腰を痛めそうだ。


「おじいさん、何かお手伝いできることは?」

「そうだねぇ、ああ、井戸の掃除、手伝ってもらえるかい」

「はいっ」


 井戸の掃除は結構難しい。

 先に側面の苔とかを落としていく。

 後は古い水を抜いて水を入れ替えるのだ。

 水を入れ替えるために、組み出しては捨てて、また汲んでと何回もこなす。


 ときどきチラっとハズキさんのほうを見ると、ニコッと笑ってくれる。

 その笑顔、プライスレス。

 とても可愛らしい。


 なんとか井戸掃除も終わらせられた。

 報酬はおまんじゅうとお金を少々。


「ニワトリから卵を取ってきてくれ」

「はーい」


 卵を拾って来るだけだと思ったんだけど。

 ところがこれが苦戦した。

 なんとこのゲームのニワトリはすばしっこいわ、攻撃力は強いわでしてですね。


「そっちいったぞ」

「あっはい、ウルさん」

「おおおうう」

「ウルさん、今度はそっちへ」

「了解、うあわああ」


 追いかけまわしてやっとのことで、卵をゲットしたのだ。

 ふぅ走り回って、それだけで死ぬかと思った。死なないけど。

 生身の体だったらへばっていただろう。

 埼高公園の池の周り一周でも結構息が上がるくらいだしな。

 ゲーム内で本当に良かった。

 リアルだったら今ごろ全身筋肉痛だよ。


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