王都でのクエストでいいものをゲットした俺たちは少し休暇というか趣向を変えることにした。
「南側は港で釣りとかもできるんだよね」
「うん」
「釣りしよう釣り」
「わかったわ」
海岸で並んで釣り糸を垂らす。
もちろん準備で釣りスキルを取ったりといろいろバタバタしたが、しかたない。
「平和だね」
「長閑だね」
「いいね」
「こういうのも」
海岸には石が拾い放題あったので、投石用セットを簡単に作れることができた。
これなら草原で歩いて拾うよりずっと簡単だった。
何セットか作って端末からバザールに登録して、時間をつぶず。
「魚釣り~魚釣り~」
「今日はハズキさんご機嫌だね」
「暗くないし~、天気もいいんだもん」
「そうだね」
ハズキさんがうれしくって体をこすりつけてくる。
なんというか猫みたいでかわいい。
ぐりぐりぐりぐり……。
いつまで続けるんだ。まあいいっか。
この前、地下ダンジョンとかオバケ屋敷とかでちょっと参っていたもんな。
「ちょっと敵倒してくる!」
「お、おう」
海岸にもモンスターが出る。
フライフィッシュ、ゼリーフィッシュの二種類だ。
フライフィッシュは空飛ぶサカナ。
ゼリーフィッシュは浮かぶクラゲである。
「エイッ」
「やぁ!」
「てい!」
別段強くも怖くもないので、ストレス解消とばかり、ハズキさんはバンバン攻撃している。
俺は釣り糸を監視して、微笑むのみ。
実に呑気なもんだ。
そのフライフィッシュはお魚がドロップするし、ゼリーフィッシュは珍味になるらしい。
のでドロップも悪くない。
ハズキさんがリポップしたモンスターを倒して歩いて、いったりきたりと忙しそうだ。
「お、掛かった」
俺は糸を手繰り寄せて、魚を一気に釣り上げる。
ほほほ、サバをゲット。
この辺はアジやサバなんかがよく釣れる。
お手頃サイズなので塩焼きとかにして食べるとちょうどよさそうだ。
「お、ウルさん、釣れた?」
「おうよ!」
「よかったね」
「ああ」
魚釣りはじっさいに魚が釣れるし、釣った魚も売れるので、待ち時間が面倒なことを除けば、実は結構収入もいいのではないか。
モンスターも種類によっては経験値もドロップもしょぼい外れモンスターなんかもいる。
魚釣りのほうが時給がいいなんてこともあるかもしれない。
港へも行ってみる。
海の男たちが大勢てなんだか話し合いをしていた。
普段は魚を売り会したり運んだりして忙しいのだろうが、様子が違う。
ちょっと困ったことがあるらしいのだ。
「おい、坊主、聞いたか?」
「いやなに?」
「クラーケンだよ。出たんだよ」
「へぇ」
「呑気だね。これじゃ海に出られないよ」
「そりゃまずいな」
「だろう」
漁師たちの間ではクラーケンの話で持ちきりだった。
漁の船はクラーケンが危険なので出漁禁止にされてしまっていた。
貿易船はなんとか間を縫って出しているが、被害が出ることがあるとかなんとか。
それでクラーケンなんだけど、巨大なイカみたいな魔物なのだ。
触手が特徴的で船を絡めとるほど巨大で、海中に引きずり込むという。
伝説ではダイオウイカと関係があるとかないとか言われている奴だ。
ということでクラーケン討伐隊が急遽結成されることになった。
うちのギルド『無欲の天使達』も出動を掛けた。
ボス戦。それもギルドやパーティーをまとめたレイドボス、レイド戦と言われる形式の大規模なものになっていたのだ。
「おひさ」
「おすおす」
「対面ではどうも」
チャットとかはしてるもののの、四六時中一緒にいるわけではない。
ギルドはまあそんな感じで緩く運営している。
ガチギルドでは俺自身、息苦しくなってしまうしね。
しかし今日は全員集合だ。
「ムルリックさんまで」
「おお、大鎚持ってきたぞ」
そういってアイアンハンマーを見せてくれる。
なるほど、この質量で打撃武器ならけっこうな攻撃力が出そうだ。
ムルリックさんもずっと鍛冶をしているかというと、そんなことなく、外に出てモンスターを狩っていることもあるんだそうだ。
「人の少ない時間は暇だから夜を中心に狩りに出てる」
「なるほど」
そうそうゲーム内時間の夜タイムはあまり人気がないのだ。
もちろん夜のほうが好きというプレイヤーもいるにはいる。
一応、現実世界とズレて昼夜は十二時間分ずつ順番に来るので、夜がないわけにもいかないし。
ガチの廃人は昼夜問わずいつも戦闘しているような人もいるが。
俺たちはそこまでではない。
そんなことしなくても、収入がちょいちょいあるので武器も防具もトップレベルで苦労してないしなぁ。
「夜は夜で星が綺麗だったりしますけどね」
「おう、そういうのはいいよね」
「私は夜のんびりするのが好きですね」
「さすが、ハズキさん」
「えへへ」
ハズキさんかわいい。
いやぁやっぱり彼女は癒しだなぁ。
ヒールも使えるから癒しの天使ですよ。