それはともかくボス戦だ。
ゲーム内では初の大型レイドだとして盛り上がっていた。
あちこちのギルドが参加を表明しているらしい。
俺たちのギルドも負けてはいられないぞ。
いいレアをゲットして一攫千金だ!
せっかくゲームをやっているのだから、いいとこは持って行きたい所存。
「いいか、ギルド単位で適当に分かれて船に乗ってくれ」
漁船の中でも大型のものを選んで、討伐隊で使わせてくれるらしい。
助かる。
「では、出航!」
「「「おおおおお」」」
「ハズキさん、いこう」
「うん、ウルさん」
俺たちが乗った船にも他に何組かのギルドが同乗している。
今のところ、みんな緊張した面持ちで各々の武器を構えて待機していた。
「右、ちょい向こう」
「おお、いたぞ、クラーケンだ!」
全員でそっちを見る。
なるほど、あれはデカい。
船を丸呑みしそうな白いイカの足が出ていた。
漁船はそれを囲うように慎重に近づいていく。
「もう少し、もう少しだ」
「よし、いいぞ、遠距離!」
「はい!」
そうそううちのギルドはわりと近接系ギルドだったりする。
この前の弓も売ってしまったし。
他のギルドの魔法部隊と弓の波状攻撃が始まった。
俺たちは出番がくるまでじっと待つ。
こういう連係プレイの時は、待つのも仕事だ。
そのうちクラーケンの足がこちらを襲ってくる。
「いくぞ」
「おおおお」
「「うぉおおお」」
剣クラスの人たちが次々とクラーケンの触手へと攻撃を加えていく。
俺も両手の短剣をうまく使って、左右両方向からイカ足を切り刻んでいく。
やっと出番がきたのだ。暴れちゃうぞ。
「どうだ」
「効いてはいるようだ。そのまま続行するぞ」
「おおお」
周りと比べてもうちのクラブの攻撃力は結構高い。
ただし遠距離職がないので、少し離れると攻撃は出来ない。
我らが無欲の天使達はみんなお金持ちが多いので、俺たちの武器は攻撃力が高めなのだ。
「どううりゃああ」
ムルリックさんのデカい鉄の鎚も振るわれる。
なかなかの攻撃力みたいだ。
「おりゃおりゃりゃ」
「うおおおおお」
連撃につぐ連撃でクラーケンを傷だらけにしていく。
「ぐおおおお」
ついにそのクラーケンの頭が出てきた。
二つの目がギラリと光り、こちらを凝視している。
表情はイカだからかわからないが、目は好戦的に見えた。
「行くぞ、ハズキさん」
「はいよっ」
俺とハズキさんはここぞと、イカ足をたどって頭の方へ攻撃しに行く。
しかしそこで俺はクラーケンに捕まり海中へ引きずり込まれる。
「うぅおおお……」
水圧が俺を襲ってくる。なんとか意識はあるがあとどれくらいもつか。
そしてクラーケンの頭のすぐ横に移動はしたものの、まだ捕まったままなのだ。
「おりゃああ。ウルさーん」
そこへハズキさんが泳いで俺を助けに来てくれた。
ハズキさんの剣でイカ足を切りつけ、俺の拘束を解除してくれる。
しかしまだ水の中だ。
い、息が……。
そこへハズキさんが空気を口移しで与えてくれる。
なんとか生きている俺は、二人で水上へ出る。
「ごほごほごほ……」
「ウルさん」
「あ、ありがとう、ハズキさん」
「ううん、それより頭を」
「おおう」
二人で目の前にあるクラーケンの頭を攻撃を加える。
連撃に加え、連撃、何連続だろうか。
「ぐうおおおおおおお」
クラーケンが咆哮を上げる。
「やったか!」
「もうちょっと、ウルさん!」
「ハズキさん! おおう!」
剣を縦に横にと攻撃し続ける事しばし、ついにクラーケンを倒すことに成功した。
クラーケンを倒した俺たち、というか俺は、ユニーク装備アクアクラウンを取得していた。
しかしクラウンなんか被るのは御免被りたい。
ということで、これは即売却となった。
けっこう宝石とかついているユニーク装備だったので、かなりの高値になったのだが、補正はいまいちのいわゆる見た目装備である。
宝石がちりばめられた王冠で特に中央のブルーサファイアがデカいのがついている逸品だ。
特殊効果として「王者の指揮」というスキルでパーティーにバフがかかるらしい。
だが、そんな恥ずかしい装備はしたくない。
「俺は実力派なんだよ」
「なにそれ、ウルさん」
「クラウンは売って、その金でいい武器買うからいいの」
「そっか、あはは」
ミハエルさんにも笑われた。
俺は得た資金と残り資金、それから他の人がドロップしたらしいレア武器が市場に出るのを見計らった。
そこで売っていたのが「シーサイド・ショートソード」であった。
短剣の中ではちょっと攻撃力が突出していて怖い。
ちょっとした両手剣なみというか、このレベル帯にしてはワンランク上なのだ。
高かったが背に腹には代えられない。
ということで一瞬で一目惚れで即購入。
薄青い透き通った不思議な短剣だ。ラムネガラスみたいな素材というか、そんな感じだった。
似たようなレア装備も出品されてはすぐ誰かに買われるような状況だったので、正解だったのだろう。
港ではクラーケンを輪切りにしたイカ焼きパーティーが開かれたという。
俺たちも一緒になってご相伴にあずかった。