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25. ハズキさんとデート


 そんなボスも倒してしばらくしてから。

 俺はゲーム内でハズキさんと休憩をしていた。


「あのさ、ハズキさん」

「なに、今頃改まって」

「リアルで、今度、会わない?」

「え、別にいいよ? どうする?」


 あっさりと了承を得てしまった。

 しどろもどろになりつつ、目的地とか集合場所とか時間とか決めないと。


「ハズキさんって関東だよね?」

「うん、そだよ」

「じゃあ、うちとも近いのかな、埼高公園ってわかる?」

「あーなんか聞いたことあるかな」

「その近くなんだけど」

「じゃあ、まぁまぁ近くだね」

「そうなんだ」


「新宿、渋谷、秋葉原とかまで出てそこでいい?」

「新宿でいい?」

「いいよ。ハズキさん」

「じゃあ、来週の月曜日、新宿でお昼の十二時からね!」

「わかった!」


 それからというもの狩りをしつつ、当日まで毎日ゲーム内で会っているといってもソワソワしてしまう。


「ウルくん?」

「ハズキさん! なんでもない」

「ならいいけど」

「いや、今度のデートが楽しみ過ぎて!」

「ならいいけど、けど!」


 ハズキさんにも呆れられちゃうほどだったのだ。

 でもしょうがないだろ。

 あの美少女ハズキさんと生まれて初めてデートしちゃうんだから。

 リアルでですよ、ね。ソワソワしてしかたがないんだって。



 ということでハズキさんと一緒にお昼ご飯デート。

 あっという間にその当日になった。


「さてどうしたもんか、早く着き過ぎた」


 俺は小心者だったので、目が早朝に冴えて、それからずっと寝ていない。

 朝ご飯もばっちり食べて、鏡の前でヘアスタイルも決めて、一時間くらい余裕で集合の駅前に着いていた。

 まあ人生でそう何回もあるわけないので、これくらいは許して欲しい。

 それにだってねえ、俺の初デートですよ、奥さん。


 集合時間はお昼ちょうど。まだだいぶ余裕がある。

 この新宿という町は広い。今から無事に合流できるか不安になる。

 ゲームとリアル、ハズキさんの見た目はあまり変わらないはずだ。

 たしか黒髪ロングだったはず。

 顔もレタッチしてある程度だと思う。

 俺は水色髪ではなく黒髪だけど、髪型はほとんど同じだ。


 あー花束とかいきなり持ってきて渡したら変な人だもんな。

 本当のことを言えば、今日はただの顔見世なのだ。

 デートということにしたいが、実際のところは昼ごはんちょろっと一緒に食べようねの会である。


 そんなこんなで人間観察にも飽きてきたころ、約束の時間になり、時間に正確なのか五分前ちょうどくらいにハズキさんが改札から外側へとやってきた。

 小さく軽く手を上げると、満面の笑みで迎えてくれた。


「こんにちは、えっとウルさん、望君のほうがいい?」


 ブルブルと俺が首を振る。


「んじゃあいつものようにウルさんって呼ぶね」

「うん。ハズキさん」

「私も本当はもちろんハズキじゃないけど、まあいいや」

「はい」


 無事に合流できて本当によかった。

 不安だったのだ。かなり。

 人の流れを見つつ、目的地を決める。


「すぐそこのハンバーガーショップでいいんだよね?」

「うん」

「んじゃ、いきまっしょい」


 適当にハンバーガーショップと決めたみたいな口調だが、もちろん何回もシミュレーションしてどこにお店があってとか調べてある。

 二人で並んで歩く。

 今日のハズキさんはミニスカートとシャツのツーピースだ。

 明るい色合いの服はとても似合っている。

 それから頭には赤いリボンが結んであっていつもより気合が入っている。

 俺は普通の服でなんだか申し訳ない。


「ここかな」

「みたいだね」


 お店に入ると、ビルの中がハンバーガーショップになっていた。

 都会だと普通だけど、田舎だと独立したショップとして展開していて、駐車場にドライブスルーなんかもあったりと大きめの設備なので、ちょっと見た目が違って新鮮だ。

 若者を中心にたくさんの人でにぎわっていた。

 俺たちも若者だけれど、その中に混じって店内を移動する。


 注文の機械ですばやく二人分の注文をする。


「ダブルハンバーガーのセットでいい?」

「いいわ」

「もちろん、俺のおごりで」

「悪いけど……最近、儲けてるみたいで。ありがと」

「ぐふふ」

「悪い笑いかただ、うふふ」


 地道な努力も実を結び、けっこうな黒字を叩きだしているのだった。

 ゲームで儲かったお金をちょっとだけリアル用に引き出して使う。

 またスマホで決済して、お金を支払う。


 そう、ゲームで儲けたお金でハズキさんとデートとか。

 俺もついにここまできたのだ。


「318番様」

「呼ばれた」


 ハンバーガーを取りに行って、席に着く。


「んじゃ、乾杯!」


 俺はアイスコーヒー、彼女はジンジャエールだった。

 乾杯といいつつ、ストローでチュルチュルと吸う。


 お嬢様はハンバーガーも食べたことがなくて、なんてこともなかった。

 まあそうだとは思った。


「お姫様ってハンバーガー初体験でポテトも手で食べたことないとかさ」

「あはは、さすがに私は違うよ」

「だよね」

「そこまでのお姫様に見える?」

「あまりに神々しいので」

「おだてても何も出ないよぉ」

「あはは」


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