アバターとそっくりの彼女だ。
なんというか実際にあっても、雰囲気も似ていて、特に違和感はなかった。
ただ肌のきめ細かさとかは本物のほうがすごい。
美人なんだよなぁ。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
お店で食べたらさっさと出ていかないと。
都会のこういうショップはなかなか長居するわけにもいかないという。
「本屋行っていい?」
「いいよぉ」
というのでお言葉に甘えて、本屋のビルへ。
該当階まで上って、ライトノベルを物色する。
「あったあった」
「なに?」
「ファンタジー・ワールドのノベライズがあるんだ」
「へぇ、そんなのあるんだね」
「ハズキさんも読む?」
「読みたい……けど一冊しかないや」
「んじゃ、また貸してあげるよ」
「ほんと、じゃあそうする」
おっと、本を貸して返してもらうということは、また会う機会ができるという意味でもあった。
まあいつも一緒にゲーム内で遊んでるけど。
やっぱりリアルで会うというのはちょっと違う。
本は袋に入れてもらい、バッグにしまった。
「都庁の展望台にですね、いきたいなぁと」
「都庁?」
「うん」
「その心は?」
「案外いったことないというか、景色がいいので」
「わかったわ。いきまっしょい!」
「りょ」
二人して地下を進み、そのまま都庁前まで移動する。
あの場所はなぜか地面の位置がずれてて変な感じがする。
並んで歩くとなんだか、視線がハズキさんに集まってくるのが分かるので、なんとも言えない気分になる。
やっぱり美少女は目立つんだよなぁ。
俺が一人で歩くときと周りの視線が全然違って笑ってしまう。
こんなに注目されるとか、ないわ。
「都庁だね」
「うん」
都庁の下へ到着。
ここからエレベーターで最上階まで一気に登った。
「おお、よく見える」
「そういえば、私も来たことなかったわ」
ガラス張りなので、遠くまで一望できる。
そこには東京の街がずっと広がっていた。
「ちょっとだけ、怖いね」
「ああ、俺実は高いところ苦手で」
「そうなんだ、よく連れてきてくれたね」
「でも、一緒に見たかったから」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「ふふ」
ハズキさんが優しく笑う。
ああ連れてきてよかった。
ちょっと外は高くて怖いけど。
広がる空は快晴の青。その下に広がる町はとても綺麗だった。
東京がよく見える。
「んじゃ戻ろうか」
「はーい」
このドキドキは高いビルだからなのか。
それとも違う何かなのか。
この時の俺たちには、わかりっこなかった。
こうして二人で戻って駅で別れたのだった。
そう、今日はデートじゃなくて、ただの顔見世なのだ。
「じゃあね、ハズキさん、またゲーム内で」
「じゃあね、ばいばい。ウルさん」
名残惜しいけど、別々に電車に乗り、それぞれの家に帰ったのだった。
◇
一人になりやっと家に戻ってきた。
なんだかハズキさんがいなくなって寂しい。
あのドキドキした感情はなかなかどうして、また会いたくなる。
家のドアを開いて中に入る。
「ただいま」
「おい、おにいちゃ~ん」
「なんだ妹か」
「なんだじゃないわい」
「どうした?」
「デートだったんだってぇ」
「げ、何故それを」
「お兄ちゃんに彼女? そんなことある?」
「まだ彼女じゃない」
妹が口をωにしてどうしたんだろうねぇって顔をしてくる。
「いいじゃんか」
「よくない!」
キラキラした目でじっと見つめてくる妹。
う、その視線に俺は弱い。
「わーった。ゲームの女の子、知り合い、それだけ」
「なーんだ。彼女じゃないのか」
「だから言ってるじゃんか」
「ちーえっ」
妹が台所に行き冷蔵庫から麦茶を取り出して戻ってくる。
俺の前でぐびぐびと飲むと、またニヤリと笑った。
「お兄ちゃん、よかったね」
「ああ」
「にしし」
意味深に笑う妹に俺も苦笑いだ。
まあいい。デートしてきたのは紛れもない事実だ。
俺もこれくらいできるんだぞ。
妹が急に優しい顔になって上目使いで見上げてくる。
「よかったね。お兄ちゃん」
「あ、ああ……」
まったく、おう、よかったよ。素晴らしかった。
今日の出来事を反芻してにやけてしまう。
最高だった。俺は最高だったんだ。
部屋に戻って、しばらくベッドに寝っ転がり、やはり思い出してはニヤニヤしたのだった。