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28. 王都観光


 向こうからハズキさんが歩いてくる。

 黒髪の美少女なのでよく目立つ。


「やあ、ハズキさん」

「こんにちは、ウルさん。そちらは?」

「こいつは、俺の妹」

「えっとハイジです!」

「そんな名前だったのか」

「うん」

「ハイジな、ハイジ」

「そそ、私はハイジだよ、お兄ちゃん」

「ふむ」

「よろしくね、ハイジさん」

「はい、えっとハズキさんですね」

「そうよ」

「噂はかねがね。兄がお世話になっています」

「あはは、しっかりしてる」


 兄妹で名前を名乗ったりしないもんな、普段。

 ハズキさんと妹のハイジががっちりと握手をした。

 仲がよさそうでよかった。


「お兄ちゃんは私のなんだから、渡しませんよ」

「いいじゃない、ちょっとくらい」

「味見します?」

「あはは」


 ちょっと火花が飛んでるかと思ったら冗談らしい。


「王都観光しようだっけ」

「そうです、ハズキさん」

「ふむ」


 適当に噴水広場にいく。

 ここでは水が汲める。ローマ水道みたいな設備があってきれいな水だ。

 錬金のポーションを作るときなどに利用している。

 次は公園に行ったりしてみる。

 普通に樹木が植えられていて、周りにはベンチが並んでいる。

 空きスペースには露店もいくつか出ていた。

 ベンチにはカップルがいちゃついてたりするので目に毒だ。

 それからスズメ、ハトなんかも地面を歩いていて、近づくとちょっと飛んだりする。

 この辺は本当に現実そっくりで、よくできている。

 路面なんかはレンガ造りになっていてお洒落だ。

 いたるところ中世ヨーロッパ風の作りでなんだか旅行にきた気分になれた。

 ついでに雑貨屋なんかも見て回る。

 アンティーク家具なども売っているが、今はハウジングもまだないので、特に欲しいものはない。


「お兄ちゃん、これ」

「買っても使わんだろ」

「うん……」


 クマの木製の置物だ。

 日本にもよくあるやつ。

 欲しいならこっちのエルフの木彫りの人形とかにしたらどうだ。

 あとこっちのドワーフのおっさんもいい感じだ。


「え、おっさんとか、いらない」

「そ、そうか」


 どうやらお気に召さなかったもよう。

 もしかしたらレア品で高く転売できるかもしれないのに。

 まあ、そんなことないと思うけどな、あはは。


 洋服店や立ち並ぶ喫茶店や飲食店を素通りして王城見学へとやってきた。

 なんというか壮大ですごい。

 空が青くてところどころに雲が流れている。いい天気だ。

 いわゆる平城ひらじろという構成だ。

 水堀が周りを一周していて、跳ね橋が掛かっている。

 跳ね橋の向こうには立派な門がある。

 中に入るのは無理そうだ。

 塀の向こう側にはぐるっと石組みの塀があり、防御を固めていた。

 ザ、城塞都市という感じだ。

 そしてその中に建物の屋根がいくつか見えている。

 特に主塔だと思われる塔がよく見える。

 塔の上には見張りが立っているのも見えた。

 手を振ってみたら、振り返してくれた。


「お~い」

「お~い」

「ふふふ」


 俺と妹で声をあげて、それをハズキさんが朗らかに笑う。

 長閑でいい雰囲気だ。

 ずっとこうやってスローライフみたいにして過ごしたいものだ。

 しかーし、我々はここでお金を稼いでリアルで使うという使命があるのだ。

 いわば、ゲーム世界に出稼ぎに来ているといっても過言ではない。


 お城の中も見学して見たいものだけど、今は無理だろう。

 まあ、そのうち。

 一応、ゲームなので、何かのイベントとかで入れるかもしれない。


 さて次は王都最大の教会だ。


「すごーい」

「豪華ですね」

「うむ」


 妹が歓声を上げる。冷静なのはハズキさんだ。

 俺は相槌を打つのみ。


 豪華な礼拝堂と付属する鐘つき堂はみごとなものだ。

 偉い人の結婚式やお葬式にも使われる、伝統あるハーリア教の教会で、かなりの歴史があるんだそうだ。

 ゲーム内だからそういう設定なのか、ゲーム内時間がどのように進んできたかは、ちょっと分からないが、とにかくそういうことらしい。

 礼拝堂の両開きの正面玄関は開けたままになっていて、自由に立ち入りができる。

 信者のNPCが何人も出入りしているので、それに倣って俺たちも中へ入る。

 中は、いわゆる礼拝室だ。

 左右に分かれた長椅子が何席も並んでいる。

 そして正面奥には演説台と祭壇、その奥に女神像、さらに奥の壁際には赤い布というか旗のようなものが垂れている。

 そしてひときわ目につくのが、正面壁のシャンデリアだった。

 緑色の世界樹、飛び回っている精霊たち、そして中央に女神様がデザインされていた。

 女神は白い服を着ていて、金髪碧眼で一見するとエルフに似ている。

 ただし耳は尖ってはいないようだ。


 祭壇にはロウソクの火が灯され、焼香台にはお線香が煙を吐いて匂いを放っている。

 その匂いはわずかだけれど入口にいる俺たちの所まで漂ってくる。

 祭壇の左右には色とりどりの果物が並べられていて、定番のバナナ、リンゴなどと一緒に異世界ファンタジーの植物特有の変わった実も並んでいた。


 ちょっとどんな植物があるのか、興味があるが、ここは我慢だ。

 いきなり行って果実のアイテム情報を見たりなんかしていたら完全に不審者だし。


「すごかったね」

「うん」


 さて教会には付属の設備があった。

 それが女子修道院と孤児院だ。

 ここは伝統的に女子用となっているらしい。


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