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29. 孤児院


 裏手の孤児院に回る。

 表にあった礼拝堂は絢爛豪華だったが、こちらは比較するとワンランク落ちる建物だった。

 隣の女子修道院も豪華さはなく質素倹約という感じだ。

 女子修道院は男子禁制で俺たちは入れないので、孤児院のほうへ行く。


「お兄さんたちが遊びに来たぞ」

「やったー」

「わーい」


 子供たちが集まってくる。

 修道院は女子用だけど孤児院の方は男子もいるらしい。

 まずはみんなで追いかけっことかをして遊ぶ。

 リアルではなかなかそういう機会はない。

 ゲーム内ではこういうこともできるのはちょっと楽しい。


「そっちいったぞー」

「うぃいいい」

「そりゃあああ」


 みんな体力があってけっこう速い。

 俺たち大人組のほうがタジタジだった。


 そのうち大縄跳びで遊ぶことにした。

 みんなで並んで縄を飛ぶ。

 子供たちの体力はすごくて、俺たちはすでにへばっている。

 ゲームでこんなに疲れるとは思わなくて、びっくりだ。

 まだまだステータスを上げなくては、ぐぬぬ。


 みんなで差し入れのクッキーを渡して、お茶にした。

 お茶も持ってきたハーブティーだ。


「いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」

「はい、いただきます」


 ずずずとお茶を飲む。うまい。

 クッキーを一口、もぐもぐ。

 程よい塩気と甘さのバランスがいい。

 甘すぎないので何枚でも食べられそうだ。

 ただ、みんなで食べているのでそれほど枚数は食べられそうにはない。

 こういう出費は必要経費だし、いいんだ。


 ハズキさんと妹ハイジが協力してクッキーを配っている。

 妹もこういうときはお姉ちゃんなんだな。


「はい、いっぱいあるから食べてね~」

「「はーい」」


 なんというかちっこいころからの記憶があるせいか、妹はいつまでも子供子供している気がしていたが、成長を見られてうれしい。


 それに対して、ハズキさんは前と変わらず接してくれている。

 俺と一度、リアルで会ってからも態度が変化とかもしていないようだ。

 それがとてもうれしい。

 なんというか、俺っていう存在を一定値は認めてくれているみたいで。

 妹を連れてきてからも、仲良くやってくれているし。


「それでね、裏庭に枯れ井戸があって、中に入るとダンジョンみたいになってるんだよ」

「へぇ」

「はっ、ダンジョン?」

「うん。危ないから入っちゃダメなんだって」

「ふーん。それ、俺たちは見にいってもいいのかな」

「お兄さんたちは冒険者だから、いいんじゃないの?」

「そうだよね」


 一応、大人にも確認を取った。

 確かに枯れ井戸があり、その中はミニダンジョンになっているそうだ。

 かなり古い井戸で、底も浅いらしい。


「行ってみるか?」

「はい」

「うん、お兄ちゃん」


 両名の許可を得たので、それでは、行ってみましょう。

 裏庭の枯れ井戸のところに移動した。

 普段は前庭にある新しい井戸を使っているとのこと。

 枯れ井戸に縄梯子を降ろしていく。


「んじゃ、俺先頭でいいかな」

「うん」


 ということで先に降りていく。

 思ったより深くなくて下に到着する。

 横に穴があり、ずっと続いているようだった。


 二人が降りてくるのを待って、先に進む。


「中、ヒカリゴケが生えてる」

「あぁ、ダンジョンでは定番だな」


 妹が周りを見ながら言った。

 ヒカリゴケはわずかだが光を放つ性質がある苔の一種で、まあダンジョンの中が明るくなるという「ギミック」としてよく使われる。

 謎の光よりは現実的設定とはいえるだろう。

 もう少し遺跡的な場所だと松明が灯ってるなんて場所もあるらしい。


「部屋だね」

「おう」


 通路の先に部屋があった。


「なんかいる」

「ネズミかな」


 デカい。どっちかというとカピバラに近いサイズだ。


「どうする?」

「倒していいかな?」

「どうぞ」

「どうぞです」

「んじゃ、私やるね」


 妹が魔法を唱える。


「ファイアーアロー」


 火魔法が飛んでいき、ネズミが燃え上がる。

 そういえば、地下で火とか使って大丈夫かな。

 ゲームだから大丈夫だと思いたい。


 きゅぅぅ。


 ネズミさんはパーティクルになって消えていく。


「歯かな?」

「うん」


 ドロップはネズミの歯みたいだ。


「次の部屋いく?」

「はい、どうぞ」

「うん」


 俺が確認をとると二人が応えた。

 次の部屋にはネズミが二匹いて、俺とハズキさんがそれぞれ倒す。

 これで一匹ずつだ。


「次の部屋は……」

「ひっ……」


 ネズミが十匹前後いたのだ。

 さすがにちょっと怖くて悲鳴が上がる。


「ファイヤーボール!」


 中級火魔法だ。

 まだ使える人はそれほどいないはずだ。

 さすが妹、ちゃんとレベル上げをしているというのは本当らしい。


「ふぅ、どうなるかと思った」

「助かりました、ハイジさん」

「いえいえ、いえい!」


 ハイタッチをかわす妹とハズキさん。


 その後の探索も順調に進み、なんというか特に何もなく終わってしまった。

 全部で十部屋くらい。

 特に旨味もなく、確かにミニダンジョンという感じ。

 とくに手ごたえがあるわけでもなく、宝箱とかもない。


「何にもないけど」

「まあ、そういうダンジョンもあるんじゅないですか?」

「そうそう、お兄ちゃん考えすぎだよ」

「そうか、そうだな」


 まあそう言われてしまえばそうだ。

 なんかギミックとかないと変な気がしてくる。


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