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30. 墓地のアンデッド


 創作系用語に「チェーホフの銃」というルールがある。

 いわく、設定を出すならそれを活かさなければならないというような意味だ。

 例えば、教会はハーリア教だった。

 名前がついている。

 ただなんとなく出すということも多いが、例えば他にも世界に宗教があり名前で区別されるなど、名前を出す意味、理由があるべきだ、とする主張らしい。


 だからこのミニダンジョンも実はなにかストーリー的な理由などで存在理由がほしいのだ。

 勝手な想像ではあるが、このネズミの歯が後で必要だとか。

 奥の部屋にギミックがあって宝が手に入るだとか。


 ただこの世界、実は半分はAIによって作られていて、あまり意味のないクエストなどが自動生成されるシステムになっている。

 そんな中にはお宝がすごいアイテムだったりして注目されるわけだけど、こういうふうに無意味なんていうハズレのケースもあるということらしい。


 よし、探索を切り上げよう。

 ちょっと釈然としないが、まあいいや。


 地上に戻ってくると太陽が眩しいね。

 ヒカリゴケがあるといってもそこまで明るいわけではない。

 やっぱり太陽の光は強い。


「ねえどうだった?」

「中どうなってたの?」


 外では子供たちが待ち構えていて、質問攻めにされた。


「あのねあのね、実はね墓地にもアンデッドが出るの」

「どんなタイプ?」

「えーっと、レイスとかいうの」

「レイスか、ふむ」


 非実体系、アストラル系だろう。


「レイスって何、お兄ちゃん」

「幽霊」

「えっ」

「だから、オバケ」

「ふーん」


 そういえば妹はオバケ嫌いなんだっけ。

 オバケ屋敷とか絶対に入らないもんな。

 そっとハズキさんの方を見ると、こちらも青い顔をしている。


「あれ、ハズキさんもオバケ嫌い?」

「え。まぁ」

「そうなんだ」


 もちろん紳士の俺はここで面白がったりはしない。

 実をいえば俺も少し怖い。

 ただ、なんというかそういうの信じてないタイプなので、幽霊は別に怖くないんだけど、ここはあくまでもゲームだと思えば割り切れるし。

 科学的じゃないものは、見間違いとかなのだ、現実世界なら。

 んでもってここはあくまでもゲーム。そうゲームの敵でしかない。


「大丈夫だよ。しょせんゲームのただの敵だから」

「そうだけど」

「お兄ちゃんも怖いくせに」

「ん、まあな」


 俺は頬をポリポリと掻く。

 いやまあ、怖いけどさ、でもあくまでこいつらデータだぜ。


「まあ、行ってみましょ」

「はい……」

「うん……」


 あんまり乗り気ではないご様子。

 話によると夕方から日が沈んだ直後くらいまで出現するとのこと。

 なるほど、時間湧きなのか。

 ゲームのモンスターの中には昼しかいない奴、夜しかいない奴などがいる。

 それから特定時間しかいないのが時間湧きだ。

 場合によっては三十分間隔みたいなタイプも時間湧きという場合もある。


「墓地怖い」

「ハイジちゃん、私もです」

「あ、ああ」


 三人でおっかなびっくり墓地を見て回る。

 もう時間は夕方になりかけで、そろそろだと思われる。

 そうしているうちにだんだん夕暮れになっていく。

 その空はとても綺麗だが、今はなんだか不安になる。


「お、なんだあれ」

「わわ、白い女の人」

「レイスだ」


 ふわふわ浮いている白いワンピースの白髪の女性だ。

 肌も白い。というか全身白い。

 なんというか空飛ぶ幽霊イカみたいだ。


「剣とか効くかな」

「さぁ」


 俺の疑問に二人とも首をひねる。


「ファイアいっとく?」

「うん、ファイアーアロー」


 火の矢がレイスに向かって飛んでいくと、その姿を貫通した。

 その瞬間、火が燃え移って炎上する。


「おお、効いてる効いてる」

「できた、私、できた」


 とりあえず火魔法が使えるというだけでもよかった。

 さて問題は俺たちの剣だ。


 ドロップは青い宝石のようなもので、アイテム名は「レイスの雫」というものだった。

 宝石系というか一種の魔石なのだろう。

 ちょっと高そう。

 これは金になるかもしれないと即座にそろばんをはじく。


「よしバンバン倒そう」

「もう、現金なんだから、我が兄は」

「全く面白いわね、あなたのお兄ちゃん」


 ハズキさんまでからかってくる。

 いいんだ。俺は現金主義者だもの。


「えいやぁ」


 剣も、まぁ効かないわけではないようだ。

 よかった。俺たちの出番がないかと思った。


 夕暮れも過ぎて、暗くなり始めたら、レイスは墓地で湧かなくなった。


「終わったかな、お兄ちゃん」

「だな」

「これ、この時間だと無限に出てくるのかな」

「たぶんそう」

「けっこう稼げそうじゃない?」

「うん、まあ」


 どうなんだろうな。

 こんな街中にある非安全地帯自体が珍しい。

 あとは闘技場くらいしかない。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ばいばい」

「また、遊びに来てね」

「ああ、またくる」

「わああいいい」


 さて子供たちともお別れだ。

 一応、神父さんのところにお顔を出していく。


「レイスを退治しましたか。ふむ。火魔法は火属性8、聖属性2くらいでしてね」

「ふむ」

「その聖属性つまり浄化作用があるのですよ」

「なるほど」

「そうだ、王宮の墓地ダンジョン、そちらも調査に入ってくれませんかね」

「というと?」

「王宮の裏庭の奥、王家の墓があるのですが、ダンジョン化していましてね」

「へぇ、そうなんですね」

「そこの調査をやってほしいと」

「わかりました。後日、伺います。また呼んでください」

「了解ですじゃ」


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