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第101話 キング・ダモクレス戦、開始

 先頭を走っていたマテンローのスキル「挑発」発動を契機に、俺達のユニオンはHNMキング・ダモクレスとの戦闘状態に突入した。

 これで、キング・ダモクレスが死ぬか、俺達全員が戦闘有効範囲外まで離脱するか、あるいは全滅するかまで、ほかのギルドはこの戦いに干渉できない。あとは、どうやってこの怪物を仕留めるかだ。


 マテンローは挑発でターゲットを確保したまま、素早くキング・ダモクレスの背後に回り込む。その動きに応じて、ダモクレスは彼を追尾し、巨体をゆっくりと回転させた。マテンローに遅れて駆け寄った俺達は、奴の弱点である後ろ脚を正面に捉えた。

 キング・ダモクレスは、この前のバージョン・アップ以前から存在するモンスターなので、部位ダメージは設定されていない。前面、側面、背面の攻撃方向によるダメージ補正の違いのみだ。細かい部位を狙う必要がない分、インフェルノ戦に比べれば、その点は楽だと言えるだろう。


 俺は武器であるメイメッサーを構えて、キング・ダモクレスの背後へと迫った。

 その俺達近接アタッカーがたどり着く前に、魔導士から「アタックダウン」と「ディフェンスダウン」の魔法スキルが、キング・ダモクレスへと飛ぶ。


「ありがたい!」


 キング・ダモクレスの攻撃力と防御力が下がったのを確認し、俺は思わず声に出していた。

 俺達のギルドの四人だけだと、こういう場合、クマサンのスキルである「ウエポンブレイク」や「アーマーブレイク」、あるいはメイの使用してくれるアイテムでしか、敵の攻撃力や防御力は下げられない。しかし残念ながら、それらの効果は、高レベル魔導士による「アタックダウン」及び「ディフェンスダウン」に及ばない。ユニオンでの戦闘の頼もしさをつい感じてしまう。


 敵にはデバフ、俺達には事前にバフ。

 完璧な状態で、俺はキング・ダモクレスにたどり着き、その太い後ろ脚へと包丁を振り下ろす。


「俺の料理スキルをくらえ、キング・ダモクレス! スキル、輪切り!」


  ショウの攻撃 キング・ダモクレスにダメージ130


 ダメージの表示を確認し、俺は小さく安堵の息をつく。

 NMのダモクレスに料理スキルが通用することは、以前にネットの情報で知っていた。だが、キング・ダモクレスが相手でも同じかどうかは、ネットでも見た覚えがなかったため、少し不安に思っていた。「キング」となったことで、もしかしたら仕様が変わっている可能性も捨てきれなかったからだ。しかし、どうやらそれは杞憂に過ぎなかったようだ。

 ほかの近接アタッカー達や、距離を取る遠距離アタッカー達も次々に攻撃に仕掛けていく。

 全員の攻撃が一通り入っても、キング・ダモクレスの体力ゲージは全く減ったように見えない。長い戦いになる――そう感じたが、焦りはない。むしろHNMと戦えるという高揚感が俺を満たしていた。


 俺はここで改めて、ユニオン各メンバーの配置を確認する。

 キング・ダモクレスを中心に、メインタンクのマテンローが9時の方向、サブタンクのジャックが12時の方向、近接アタッカーが3時の方向に位置取っている。遠距離アタッカー達は、近距離アタッカーの後方につき、ヒーラー達はパーティメンバーのサポートをできる位置に控えている。

 マテンローのパーティは、タンク担当パーティで、マテンロー、ジャックのほかは、ヒーラーが二人と、ヒーラー兼アタッカーの魔導士が二人。もう一つは火力パーティで、近距離アタッカー三人、遠距離アタッカー二人、ヒーラー一人。もう一つは俺のパーティで、第二火力パーティとなる。

 正直、急遽集まったことと、二つのギルドの混成であるため、職業のバランスやパーティはベストとは言えないだろう。

 この狩場には、雑魚モンスターがポップしないため、それらのターゲットを取るためのサブタンクが今回は必要ない。そういう敵がいる場合、クマサンがそちらの役割に周り、ジャックはさらに敵が湧いた場合のタゲ取り、及びマテンローに何かあった時のタンクを務めることになる。だが、雑魚モンスターポップの可能性がない今、クマサンにはタンクとしての仕事がなく、俺の隣で近接アタッカーとして、キング・ダモクレスの背後から攻撃をするしかなくなっている。二つの火力パーティにしても、近接と遠距離とがパーティ内に混在しており、褒められた編制ではないだろう。

 だが、すでに戦いは始まっている。

 それぞれが、自分の成すべきことをする――それが攻略への最善手だ。


「スキル、半月切り!」


  ショウの攻撃 キング・ダモクレスにダメージ145


 俺の料理スキルはまたも高ダメージを叩き出した。

 ほかのアタッカー達の通常攻撃は二桁の前半、スキルを使っても100に届くかどうか。

 俺の通常攻撃は1ダメージに過ぎないが、料理スキルによる攻撃は通常攻撃の弱さを補って余りある。

 ここでも俺は最強のアタッカーだ。

 俺は、改めて右手に握るメイメッサーの感触を確かめた。冷たいはずの刃から、次の攻撃の瞬間を待ちわびるかのような熱を感じる。

 だが、俺が次のスキルを発動するより先に、俺のそばにいる火力パーティの暗黒騎士ダスクベインが、闇のオーラを放ちだした。それは暗黒騎士が必殺スキルを発動する前兆にほかならない。


「スキル、カラミティ・エクリプス!」


 ダスクベインの勇ましい声とともに、彼の剣から漆黒の炎がキング・ダモクレスへと伸びた。


  ダスクベインの攻撃 キング・ダモクレスにダメージ245


 恐らく彼が「蒼天の牙」のメインアタッカーなのだろう。

 俺の料理スキルのダメージ表示を見てプライドが刺激されたのか、暗黒騎士の強スキルを出していた。

 こんな序盤からダメージを出して敵ヘイトを溜めて大丈夫かと不安になる。

 俺の料理スキルは、ダメージの割にヘイトが案外高くないということが、ネット上の有志の検証で明らかになっている。体感でもそんな感じはしていたが、実際にそういった特性を持っていたのだ。

 だが、暗黒騎士のスキルにそんな恩恵はない。

 キング・ダモクレスがこっちに向きを変えやしないかと少し警戒したが――どうやらその様子はなかった。

 タンクのマテンローが頑張っているのか、それともここまでダスクベインがたいしてヘイトを稼いでいなかったのかはわからないが、今のダメージで標的にならないのなら、俺も大丈夫だろう。

 キング・ダモクレス相手の最高ダメージ値を更新されたのなら、こちらも更新し返すだけだ。

 俺が最強のアタッカーだってことを、このユニオンのみんなに、いや、この空間に集まっているHNMギルドの連中にも、見せつけてやる!


「スキル、みじん切り!」


  ショウの攻撃 キング・ダモクレスにダメージ352


 圧倒的なダメージ量に、一瞬で視線が俺に集中するのを感じた。仲間達だけではない。遠巻きに見ているHNMギルドのメンバーや、見物している一般プレイヤーも、この瞬間は間違いなく俺を見ているとわかる。

 動画で俺の戦いを見た人もいるだろう。だが、生で俺のこの力を見るのは、ほとんどの人が初めてのはずだ。

 胸が熱くなる。

 鼓動が高鳴る。

 この戦いが、俺のHNM戦デビュー戦。ここで俺の名を轟かせる――そんな想いが、体の奥底から沸き上がってきた。



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