次の日の朝、いつもより早く起きた。美津子も同じだった。
朝食を手早く用意した。朝のメニューはその日によって異なるが、この日は朝からテレビで情報収集という目的があるので、簡単に済ませることにした。
康典もその時間、ダイニングにやってきて、美津子が準備する朝食を待っている。私はその間、康典と少し話すことにした。
「昨日、北海道で緊急事態宣言が出たってニュース、知ってる?」
「知ってるよ。昨日学校から帰ってきて、お母さんが用意してくれていた夕食を食べている時、テレビを付けたらそのニュースをやっていた。大変だね、北海道」
ニュースは見たようだが、そのことについてはまだあまり真剣に捉えている様子は伺えない。場所も離れている地域のことだし、数字的にも中国や韓国よりも少ない。だから深刻に捉えていないのだろう。
「でも、全国に広がり、東京も同じようになったらどう?」
「どう、って言われても実感が湧かないよ。東京でも少しずつ増えているのは知っているけれど、友達や周りの人が感染したって話は聞かないし、ピンとこない」
年齢や立場の違いだろうが、この言葉を聞き、もしかすると心配のし過ぎかも、と考える自分がそこにいた。
そうこうしている内に美津子が朝食を運んできた。テーブルの上にはトースターやバター、ジャムが入っている器が用意してあるので、この日はパンを中心としたメニューということが分かる。
こういう時、私と美津子はスクランブルエッグ、康典は目玉焼きになる。それにベーコンやウインナー、サラダとオレンジジュースかミルク、デザートとしてヨーグルトにフルーツという内容になる。和食になると作るのに手間がかかることがあるが、このメニューだと手早く済ませることができる。
私たちは予定通り食事を手早く済ませ、テレビを見ることにした。康典も学校があるので、食べたらすぐに家を出た。
私と美津子は食器を片付け、すぐに洗った。こういうことは仕事の関係で手際良くできる。時間を浮かせ、リビングに行ってテレビを付けた。
「さっき、康典にちょっと話したんだけど・・・」
テレビで話しているテーマは私たちが望んでいる内容とは異なったので、康典と私が話したことを言おうとした。
「あっ、それなら台所で準備していた時に聞こえたわ。まだ康典くらいの年齢ではそんな話は分からないわよ。それよりもテレビをしっかり見て、それから話しましょう」
美津子はまず、きちんと自分の目と耳で情報を確認したいようだった。
ほどなくして聞きたかった話が放送され始めたが、私たちはその内容を聞き逃さないようにしていた。
話の内容自体、私が昨日聞いたことと同じだった。一晩しか経っていないので当たり前だか、美津子にとっては初めてのテレビからの情報になった。こういうことは誰かを介して耳にするというより、直接聞いた方が心に深く落ちることがある。今回のようなこともそうだろうが、私はテレビを見ている美津子の顔を見ていた。