その顔は真剣で、昨晩の感じとは様子が違っていた。やっぱり、直接自分の耳目で確かめた方が心に響いていたのだ。
ワイドショーの場合、いろいろな話題を取り上げるので、ある程度報道されれば次の話題に移っていく。そのタイミングで私たちはテレビを見るのを止め、顔を見ながら話すことにした。ただ、追加の報道があるかもしれないということで、テレビは付けっ放しになっている。
「どうだった?」
私は美津子に尋ねたが、その時の表情は昨日とは異なる。少し緊張感が増しているように感じたのだ。
「この前、飲食店だからということで衛生面からマスクやアルコール消毒液を用意したじゃない。あの時、正直言うとちょっと心配のし過ぎでは、と思ったけれど、その後薬局からは商品が無くなったので、あなたの勘が当たったって、後から思ったわ。昨日の話は私が初めて聞いたことだし、疲れていたから今一つ心の中に入ってこなかったけれど、今朝はあなたの心配がちょっと分かる。だからといって何ができるかと言えば分からないけれど、これからはちゃんとテレビや新聞、ネットなどから情報を集めたいわね。その中から私たちにもできる工夫を考え、しっかりお店を護っていきましょう」
昨日とは打って変わって積極的な雰囲気になっている。
ただ、美津子も言っているように、だから何ができると言われても、今やっていることくらいしかできない。もっと感染が広がり、打つべき方法が見えてきたら、それを参考にやっていくしかない。
「それで今日、みんなには何て言う?」
私は美津子の顔を見ながら尋ねた。とりあえず今、できることはやっているつもりだ。だから具体的にどう指示するかとなれば、頭に浮かんでこない。
それは美津子も同じようだった。互いに顔を見ながら言葉が詰まっていた。
「とりあえず、昨日のニュースの話をして、より一層しっかりと手洗い・うがいを徹底するしかないよ。いつもやっているからと言われそうだけど、ここで気を抜かないようにと改めて言う。それから来店するお客様にもアルコール消毒を徹底していただくようにスタッフから誘導してもらおう。最初は面倒くさいとお客様から思われるかもしれないけれど、逆に考えればそういった衛生的な面に気を付けている、と良い意味で捉えていただけるかもしれない。俺たちの店は個人店で小さいけれど、来店するお客様とはその分良い関係になっていると思っているし、その点からもウチから感染者は出したくないしね」
私は少し語気を強めて言った。単に営業面ということじゃなく、来店していただくお客様を大切にしたいという思いがある。私たちの商売は、直接お客様から支えられているわけだから、こういうところは自分たちのココロとして持っていたいと考えているのだ。