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緊急事態宣言発出 6

 この日の閉店はいつもよりも早かった。ある時間から客足が止まり、外の通りを見ても人が歩いていない。実質的に開店休業的な状態になったからだ。

 私は店ののれんを下ろし、店内の明かりを少し落とすように指示した。外からはもう閉店したと思われるような状態になった。

「今日はこれ以上店を開けていても期待できない。だからこれからは俺たちがここでちょっと話をしよう。もちろん、飲み食いしても代金はいらない」

 最初はちょっと深刻な感じで言ったが、最後は少し笑みを浮かべ、優しく言った。

「やった! 店長、好きな物食べて良いですか?」

 アルバイトの一人が言った。

「ああ、良いよ。今日はみんなのお疲れ様会だ。あまり忙しくはなかったがな」

 私は少々自虐気味に言った。

「お前たち、店長の厚意なんだぞ。少しは遠慮しろよな」

 店長の言葉とアルバイトの様子を見ていたチーフの矢島が言った。アルバイトはあまり考えていないようだが、矢島は将来自分の店を持つことも考えている分、何かと気を遣っている。

 この日は私を含めて4人いる。店内には奥にちょっと広めのテーブルがあり、私たちはそこに座った。8人は座れるところだから十分余裕で座ることができる。

 各自好きな飲み物を冷蔵庫から持ってくるが、ビールが多かった。酒の肴についてはあえて何か作るというより、営業の際にすぐに提供できるようなものばかりになった。こんな感じになるということは、店長から何か話があるのだろうと全員思ったからだ。

 とりあえず一通り用意ができたが、こういうことは商売柄素早い。早々に準備が整い全員、私が何を話したいのか、といった眼で見ていた。

「今日はいつもの閉店時間までみんなと話したいと思ってこういう場を作った。もちろん、この時間もバイト代は出すから心配するな」

 私はアルバイトの時給のことを念頭に、余計な心配をしないように話した。

「店長、ありがとうございます」

 矢島が率先してお礼を言った。そしてアルバイトにもお礼を言うように促した。

「矢島君、ありがとう。・・・みんなそんなにかしこまらないでくれ」

 私はちょっと間を置きながら、みんなの顔を見て言った。

「最近の新型コロナウイルスのことだが、以前にもちょっと話したよね。その時はまだあまり深刻な感じはしなかったけど、今は北海道のことや学校の休校、イベントの中止や延期などが相次いでいる。こんな状況が続けば居酒屋といった商売には大打撃だ。最近の客数の変化を見てもそれは明らかだし、今日は途中で流れが止まった。俺にはテレビや新聞、ネットなどのニュースでしか情報が入らないが、みんなの周りではどうなっているかと気になっているんだ。マスコミだけでなく、生の声を聴いておきたいと思ってこの場を設けた。聞いていること、気が付いたことがあればここで話してほしい。そういった情報も、これからの店舗運営には必要だし、今後、みんなからいろいろなアイデアを出してもらうこともあるかもしれないからな」

 私はあえてゆっくりこの場を設けた理由を説明し、どんな話が出てくるかに期待した。


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