緊急事態宣言後、数日経ったが街はすっかり様変わりした。人が歩いていないのだ。
私の店は駅近くなので、本来なら昼夜を問わず人通りがある。それはいろいろな商売に必要なことであり、そのような人の流れがあるからこそ、多種多様な仕事がそこで生まれる。
しかし今、その人の流れがないのだ。少なくとも、私が生まれてからこのような様子は見たことがない。思わずゴーストタウンというのはこういう感じなのだろうと考えていた。
もちろん、それは比喩的な表現であり、本当に歩いている人がゼロというわけではない。生活に必要な買い物もあるし、すべての経済活動が完全に止まっているわけではない。
日本よりも厳しい欧米のロックダウンにしても、病院に通ったり生活に必要な店は開いているし、食料などは買える。それで何とかなるかどうかは別として、最低限の人の流れはある。日本の場合、法的にそこまでは行なえないので、欧米に比べると緩やかだし、私たちの店も午後8時までの営業は認められている。休業要請が出ている業種に比べるとまだマシと思わなければならない。
ただ、そういうことは頭では分かっていることであっても、また、人と話している時には元気なようにふるまっても、心の中では現実問題と合わせて考えることになるので、ちょっと心が落ち着いてきてもすぐに落ち込むということが繰り返される。
本当に1ヵ月で解除されるのか、そしてそこからへ本当に元に戻るのか、客商売ということから自分や家族、スタッフへの感染はないか、考え始めればキリがない。同じ考えが頭の中を駆け巡ることに自分自身が嫌になるが、こればかりはどうしようもない。
そしてそのような心情があっても、美津子やスタッフの前では動じていない様子でいなければならないのでなかなか辛い。店ではいつものように笑顔でいなければならない。暗い居酒屋なんて誰も来ないということは分かっている。だから努めて明るく振舞うことにしているが、本心と異なる行動はとても疲れる。
せめてもの救いはランチタイムだが、会社自体もリモートワークということで出社している人が少なく、スタートした時と比べると売り上げが落ちている。ランチタイムも最初はまだ知名度が低いからではとも思っていたが、勘定の時、来店する客から話を聞くとそもそも出社している人が少なくなっているのだ。
だからといって、理由をすべてそちらに持っていくわけにはいかない。現実に来店する客もいるし、それは他店でも同じはずだ。そこでより差別化をして来店を促そうと考えるが、メニューを工夫するとか、チラシを配布するくらいしか思いつかない。そして今、そういうことをやってもコストばかりがかかるという現実も知っている。
ならばここはやはり我慢、といって自分をなだめるしか方法はなかった。
だが、逆にランチタイムの後の夜の仕込みにあまり時間をかけなくでも良いという状況もある。だから心身に疲れを溜めないようにということで、1週間に2回のペースで奥田の施術を受け、体調をキープしようと美津子と話し合った。自分たちがストレスで倒れるようなことになれば、コロナとは違う意味で大変だ。改めて日常のメンテナンスの大切さを自分のこととして認識していた。