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緊急事態宣言発出 38

 4月10日夜、この日も早仕舞したのでいつもより早い時間に家に戻り、テレビを見ていた。7日の緊急事態宣言に関係し、東京都のほうから具体的な宣言に関係する要請内容のニュースをやっていた。そこではナイトクラブ、パチンコ店、カラオケボックスなどには休業要請となり、居酒屋は夜8時までの営業時間短縮といったことだった。酒類の提供は7時までとなっており、私の店の場合、実質的に夜の部は4時間の営業時間になってしまう。

 それに対して応じたところに対しては最大100万円の支援金が出るということだが、5月7日まで1ヵ月の保証でということでは苦しい。

 もちろん蓄えはあるが、基本的には1ヵ月売り上げから経費を賄い、その余剰分を蓄えてきた。商売には波があることを知っているつもりなので、その時のための積み立ても含んでいる。そして、そういうお金は何かあった時に立ち直るための資金という意識もある。

 ただ、それは今回のように全国的、というより世界的な問題で経済にも大きなダメージがあるような時にも有効かどうかは分からない。何か対策をしてその効果が見込めるかどうか、私には読めなかった。

 先日、奥田のところで心身の緊張を取ってもらい、周りからも元気になったと言ってもらっていたが、実際に緊急事態宣言の詳しい話を耳にすると、やはり気持ちは落ち込む。以前よりは多少ましな感じはするが、ではどうするかという思いが再び心の中で頭を持ち上げてくるのだ。

 私と美津子は東京都の方針のニュースに耳を傾けており、互いに無言だ。この前、私が落ち込んでいる時に力づけた美津子も、今度は何も言わない。おそらく、気持ちが沈んでいるのだろう。

「宣言発出で要求される内容がはっきりしたね。まずは明日から、そのつもりで対応しなければいけない。まずはお知らせ作りからかな」

 私は美津子のほうを見るような見ないような微妙な視線のまま話した。美津子も同じような感じで生返事をしている。やはり具体的な内容を聞いて気持ちが沈んでいることが分かる。

 この前はその時、私が力づけられたので今度は私の番だと思った。

「美津子,決まったことは仕方ない。ウチの店だけじゃないし、同業者全部が同じ思いをするんだ。この前は俺が元気づけられたけど、今日は俺がしっかり言う。今、俺もお前も、そしてスタッフみんなも現状を理解し、頑張ろうということを言っている。奥田先生のところに行った後、1号店のみんなとちょっと話し合ったが、基本的には前向きにやっていこう、ということになった。ランチタイムの話が出た時、1号店・2号店のみんなが集まったよね。その時の雰囲気に近かった。俺たちがここで萎んでいれば、せっかく頑張ろうと言ってくれているみんなに申し訳がない。この1ヵ月、多分数字的には苦しくなるだろうけど、支援金も出るようだし、もともと3号店を出そうというだけの資金もある。それを使えば新規の開店には影響が出るだろうけれど、つぶれるほどまでにはならない。予想より長引いても常連のお客様もいるし、またすぐに復活するよ。それまで前向きに行こう。何か良いアイデアも生まれるかもしれないので、この時期、次のことを考えてやろう」

 私は今言えるだけのことを言ったつもりだった。どこまでそれが美津子の心に響いたかは分からないが、表情が少し明るくなったことは確かだ。やはり、何かあっても積極的な気持ちを忘れない、ということの大切さを実感した。最近、改めて実感することが多くなったような感じだが、こういうことで人間は成長していくのかもしれないと、一人で納得している自分がそこにいた。


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