5月15日、東京や大阪などを除く39県で緊急事態宣言が解除される方針が示された。残る8都道府県については21日の感染状況を見て検討するということで、これまで経験したことが無かった全国的な行動制限に明るい兆しが見えた。
そのニュースは美津子と2人で聞いたが、お互い、何かホッとしたような表情になっている。
「あなた、良い笑顔よ」
思わず美津子が私に向かっていった。その美津子もこれまでの緊張がほどけたような感じになっており、私は心の中で思わず「お前もだよ」とつぶやいていた。
そして私の脳裏には10日前にみんなで話したことが浮かんできた。緊急事態宣言のために昼間の人の流れも悪くなっており、会社勤めの人たちもリモートワークの人が多いためか、ランチタイムについても動きが悪い。だから、せっかくみんなが良いアイデアを出してくれてもサイドメニューの企画以外は実行できないでいた。せっかく新しい企画をスタートするのだから、もう少し世の中が落ち着き、いつもの流れに近くなってからが良いアイデアも生きると考えていたのだ。
もちろん、その方針は全員に伝えてあるし、同意も得ている。だから、実際にスタートするとなると、先日の話はほぼそのまま実行できるまで準備はしてある。
もっとも、既存のメニューの活用だからランチ企画導入に比べると容易だ。だからこそ様子を見ながら、ということにしているわけだが、他県で解除され、東京も含め、残りの地域で感染者が少なくなればやっと日常が取り戻せる。すぐにこれまでのような感じになるとは思っていないが、だからこそ、その時に備え、まずは心構えをしっかり持つことが大切だ。このことは商売を始める時から意識していることであり、今回のような特殊な状況からの脱却を意識する時にもそれが活かされていると客観的に自身を見つめている自分がいる。
自分のことを2人称で見ているような感じだか、だからこそ頑張れているのかもしれない。
そして実際に他県で解除されてくると、いつ東京がそうなるかということが気になってくる。感染状況を見た上でということになっているので、これまで以上に毎日の感染者数が気になるだろうが、それを日常を取り戻すカウントダウンと考えれば良い。私の勝手な思いではあるが、物事を多面的に捉えることで、一般的にはマイナスのイメージになることでもプラスに転じることもある。
こういうところはこれまでも商売で意識しているので、この様な考え方を今回もうまく活用しようと自然に思っていた。ここでそれが活用できるとは思っていなかったが、そう考えるとニュースを見るのが楽しみになる。こういうところは私の頭の中のことだから、美津子にも理解してもらえないかもしれない。
でも、それで自分の心が落ち込まずに済むなら、そして表情も明るくなれば他の人にも伝搬するものがあるだろう。閉塞感が漂っていた空気が少しでも良い方向に流れていくのであれば、私は大いに実践したい。
今日、店に行った時、私の表情で矢島やスタッフの雰囲気が変わり、その上で今日のニュースの話ができれば雰囲気も変わってくるだろう。その上で先日話したことが具体的なスタートできる状況になったら、いろいろなことが少しずつ好転してくるであろうことを期待している自分がそこにいた。