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緊急事態宣言解除 16

 奥田の施術で身体が軽くなった私は、その日一日、心も大変軽かった。矢島もその様子を口にしたが、それはこの日のスタッフも感じたようで、そこから明日のミーティングのことをみんなに告げた。

 仕事が終わった時、この日休んでいるアルバイトスタッフにも連絡し、全員の予定を押さえた。

 2号店についても、美津子が中村をはじめ、アルバイト全員と連絡を取り、ミーティングの予定を伝えていた。

 そのことは夜、家に戻った時に美津子から聞いたが、私の体調のことも話した。奥田の施術によって心身が軽くなり、改めて癒しの大切さを実感した、ということを告げ、明日の予約を楽しみにしておくよう言った。もちろん、美津子もその経験はしっかり知っているはずだが、自分の調子が良くなると、つい一言多くなってしまう。

 こういう時、ふと考えることがあるが、奥田たちの癒しはどうしているのだろうか、ということだ。職種は違っても同じ人間なので心身のストレスは同じようにあるだろう。そしてそういった対応はどんな仕事でも大切な基本中の基本になるので、そういったメンテナンスについてはちょっと気になった。

「美津子、俺たちは疲れた時、奥田先生にお世話になっているだろう。でも、先生たちは疲れた時にはどうしているんだろうね」

 気になったので私は美津子に訊ねてみた。もちろん、美津子がそういうことを知っているはずはない。

「私に訊ねられても分からないけど、先生のところには何人かいらっしゃるから、お互いに施術されているんじゃないの」

 もっともな回答だし、私も同様に思っている。

 でも、私たちは身体のことだけでなく、心配事なども相談している。心身不可分ということは奥田からも聞いているがお店の中でそれぞれの立場があるし、いつも顔を合わせているので、なかなか心の中までは明かせないだろう。とすれば、肉体的なことであればともかく、精神的な癒しについてはどうしているのだろう、という素朴な疑問が湧いてきた。

 ただ、これは施術を受ける立場で聞けることではないので、いくら親しくなってもお店で会話するようなことではない。おそらく、この点は私たちと同じように何かの解消法を持っているのだろうということで話が落ち着き、その日は休むことになった。


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