数日後、予定通りミーティングのために午後9時、1号店に全員集まった。私と美津子、そしてチーフの矢島と中村、アルバイトスタッフも出席したが、事前に今回のミーティングの趣旨と各自にプランを考えてもらうよう指示していたので、前回のようにこれから話される内容に大いに期待していた。
「やっと緊急事態宣言が解除され、またいつもの感じ戻ってきつつあるけれど、まだ完全に終息したわけではないので気は抜けない。だから、もっと店のパワーアップを図り、みんなの雇用を守りたいと思っている。そのためにはみんなの協力が必要だし、知恵もそうだ。だから今回のミーティングを企画したわけだけど、連絡してから時間もあったので何か良いアイデアがあればここで発表してほしい」
私は全員の顔を見ながら話した。こういう時、これまでであれば目や顔を伏せる人もいたかもしれないが、私も含めこれまで経験したことが無いことが起き、現実に大変な目にあっている。だからこそ、気持ちも変化し、自分を守るためということも含め、真剣な雰囲気が伺えた。
しかし、だからといってアルバイトから第一声が出ることは無い。それは予想していたことだが、その空気を察してか、矢島が発言の口火を切った。
「緊急事態宣言中のいろいろな動きを見ていたつもりですが、人出が減少しましたよね。でも、食べることは人間にとって必要なことだし、普段は自分で作っていても、たまにはその手間を省きたいとか、お店の味を楽しみたい、と思う人もいると思います。俺のアイデアを採用してもらい今、ランチタイムを毎日やっていますが、コンセプトがうまく当たり、宣言中も思った以上にお客様が見えました。1号店の常連の相沢さんからは味が良い、気に入っている、というお話もいただいていますが、同様の話は他のお客様からもレジのところで耳にしています」
この話をした時、1号店・2号店を問わず、全員が頷いていた。おそらく、現場に立っていて実感していたのだろう。
「俺はこういうことを経験し、ランチメニューをそのままお弁当ということで販売したらどうかと考えました。具体的に行なう場合、いろいろ考えなければならないところがあるし、みんなへの負担のこともある。だからここで今日のミーティングの具体的な議題例として話しさせてもらいました」
矢島はそう言うと、みんなの顔を見た上で着席した。
その時2号店の柏木が立ち上がり、矢島の意見について話し始めた。柏木はアルバイトとして働いているが、女性用のランチタイムメニューについても協力してもらっている。だからこそ思うところがあるのだろうが、こういう流れは私が期待していたものだ。スタッフの方から自発的に発案があり、それをサポートするような流れは全員がまとまるきっかけになる。もともとランチタイムについてもそのよう流れだったし、それが昼の営業のベースになっているため、今回のような流れはその再現のような感じになっている。
「今の矢島さんのアイデア、私は良いと思います」