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新企画立案 5

 柏木は続けて言った。

「私は接客時、お客様がテーブルでこのメニューが会社で頂けたらいいね、といった話を耳にしたことがあります。その時から考えていたことですが、今、矢島さんからお弁当企画の話が出たので、そのようなお客様のリクエストにお応えできるのではと思いました。実は私、お客様の話を耳にした時、お弁当を出しているお店の様子を見て回りました。例えば、軽くお昼を済ませる時の定番の一つの牛丼屋さんですが、お弁当もありますが、汁物は付きません。もし必要であれば別注になります。でも、ウチの場合、汁物にもこだわってるわけですし、スープやお味噌汁が美味しいというお客様もいらっしゃいます。ならば、そこまで含めてお弁当にできれば、他との差別化もできるのではと考えています」

 現場で耳にしたことと、自分でやったリサーチの結果を踏まえた話には説得力があった。この話にも全員が頷いていたが、そこに中村が意見を言った。同じ2号店のスタッフ同士ということもあるが、どんな話をするか、全員の意識がその言葉に集中した。

「俺も原則的には賛成です。俺もそういう店で汁物を付けていないことは知っています。店内で食べれば無料で出るところもあれば、そこでも別料金、というところもあります。もともと店の中でも別料金のところでは違和感はないでしょうが、ウチのようにはじめからセットになっている場合、別注文になるというのは高くなったイメージがつくのではと思います。となれば、弁当の場合でもそのままセットにする、ということが望ましいと思いますが、容器代というコストがかかります。また、持ち帰りの時にこぼしたりする可能性もありますので、その点も考えなければなりません。持ち帰りのための袋や汁物の固定のためのものなどの原価率に関係してくると思いますので、この点は社長の判断になるのではと思っています」

 この話から中村にも経営者の視点からの考え方が見受けられたわけだが、この傾向も良い。これまではこういう話は矢島のほうから出ることが多かったが、そう言ったことが中村にも影響を与え、考え方が違ってきたのだろう。こういう点は緊急事態宣言といった初めての体験が関係しているのだろうが、雨降って地固まる的な感じに受け取っている。

「確かにコスト的なことは俺たちが考えなければならないことだが、その出費で売り上げが伸びれば問題ない。今、柏木さんが話してくれたことや、俺が相沢さんなどから聞いていることを考えれば、なるべくお店で出している条件のままのほうが味のファンが増えてくるように思う。容器の仕入れについては業者との交渉になるが、そこはコスト削減のために俺たちが頑張る。だからみんなは今のようなアイデアをたくさん出してくれ」

 私はコストのことなどで意見が出しにくくなることの方が気になった。その点は経営者として考えることだし、みんなには自由に発想・発言してほしかったのだ。もっとも、明らかにコスト高になると判断される場合はブレーキをかけるつもりでいたが、そのようなことはチーフである矢島や中村であれば理解していることだ。だから私が言う前に彼らから話が出るだろうが、こういう点は最近の言動からの信用だ。経営者的な発想ができるようになれば、3号店のことや彼らの独立なども現実化してくる。独立の場合、私としては痛手だが、チェーン店としてやってくれる場合、共同仕入れなどでコストを下げることもできるし、それは経営する立場では共に助かることだ。今はそこまで話をするだけの状況ではないが、将来のことを考えた場合の視点の一つになる。ある意味、今日のミーティングはそういうところにも関係する内容になっていった。


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