私はその疑問を解消するため、中村に質問した。その時の表情は待ってましたと、いった感じだったが、自分のアイデアをきちんと披露するための前フリのような感じで話したことがその回答から分かった。
「はい、多分そうおっしゃると思っていましたので、今回のミーティングの前に一つアイデアを練ってきました。おそらくランチタイムに来店し、店内で召し上がる方と弁当を買いに来られる方とは客層が違うと思います。ウチの場合、ランチタイムが当初の予想以上にうまくいっているのは矢島さんがこの企画の時におっしゃっていた女性のお客様を意識したことだと思います。同業者で同じようなコンセプトでやっているところはないし、その意外感と共に矢島さんがおっしゃるように味の問題、そして花をテーブルに飾るといった要因が複合的に重なっていると思います。でも、弁当の場合はそういうことは関係ないし、見た目や他で出していないコンセプトを分かっていただければ売れないのではと思いました。そこで弁当の並べ方なども工夫し、雑に並べたりするのではなく、料理のジャンル別に並べるのです。ちょっとしたことですが、お客様の好みを考えると、メインが和食なのか洋食なのか中華なのかといったことは大切だと思うんです。作る側としてもこういったコンセプトを前提にメニューを考えれば、それぞれのジャンルの中で日替わり的なメニューも考案しやすいでしょうし、統一感も取れると思います。例えば、エビを使ったメニューの場合、中華のジャンルではまずエビチリ、次の日はエビマヨ、さしてさらに次の日はエビチャーハン、といった感じでローテーションを考えることができるでしょうし、食材の効果的な使い方もできると思うんです。もちろん、最初に中華としてやったものを次は和食や洋食に使うということもできるでしょうし、こういったメニューを考えるのは飲食に携わる俺たちの楽しみでもあります。もちろん、中にはこれまでお店で出していなかったメニューも出てきたりして、味作りから始めなければならないケースも出てくるかもしれませんが、それもお店の実力アップのためにプラスになると思います。飲食店の基本である味やメニューの工夫はお弁当の場合でも活かせると思うし、見た目や幅広いメニュー構成にもなります。そうなると、ランチタイムにないメニューも登場するでしょうが、いつもはランチタイムというお客様が今日はお弁当で、というケースも出てくるかもしれません。これはお客様には選択の幅を広げることになるでしょうし、そういうところからウチの名前が浸透していき、将来の数字のアップも見込めるのではないでしょうか」
いつもはおとなしいイメージが強かった中村だが、今回は熱弁をふるった。ランチタイム企画では矢島の発案が取り上げられた、ということもあり、もしかするとそれが良い意味のライバル心を掻き立てたのかもしれない。その様子を見て、私よりも先に発言したのは矢島だった。
「中村君、今の話、素晴らしいよ。それに比べて俺の話は抽象的な内容で具体性に欠けていた。精神論だけではなかなかカタチが見えないし、数字も読みにくい。今日のアイデア、完敗だよ」
矢島は心から中村の意見を称えた。その様子は私たちか見てもほほえましかったし、今、コロナで大変な時期ではあるが、だからこそみんなで話す機会も増え、結束が固まったような感じがする。実際にこういう企画を実施し、狙い通りになるかどうかは分からないが、この様な熱い気持ちを持っている人がいるというのは心強い。私は美津子に軽く確認し、さっそく中村のアイデアを念頭に、具体的なモデルケースを話し合うことにした。