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新企画立案 8

 一応のリサーチが終了した夜、1号店に私を含めた4人が集まった。弁当企画の具体的なことを決めるミーティングのためだ。基本的な路線についてはこれまで少しずつ話しているのでその確認と共に、最も大切なメニュー案がこの日の議題になる。

 まずはリサーチの結果、私が実感したことについてみんなに話した。

「パターンとしては事前に調理し、そのために冷めた商品になっているのでレンジで温めるようにしているケースもあれば、オーダーを受けてから作り、ご飯もその時にということで、作り立てのイメージがある場合があった。もっとも、作り立てのケースでも実際に食べる時には持ち帰りの時間の関係で冷めてしまうので、店内で提供するような感じじゃなかった。ウチで弁当を販売するとなると、少しでも作り立てをイメージできるようなタイプのほうが良いと思うけれど、盛り付けも料理の一部と思っているので、どうしてもワンランク落ちるような感じになってしまう。また、実際のメニューについても揚げ物や炒め物というケースが多かったので、それでは他店との差別化は難しいと思う。俺がリサーチした時に感じたことだが、こういうことをベースに意見を出してもらえればと思う」

 我ながら少し厳しめになったと思ったが、こういうことは甘いことでダメだと考えている。今後の商売に大きく関係することだからこそ、ハードルを上げ、その前提でアイデアを出してもらいたかったのだ。

 今回のミーティングの場合も事前に知らせてあったので、この日の出席メンバーの場合、それなりの腹案を持っていると思っているので、この点を期待した。

 私の話の後、少し間が空いたが、やはり最初に発言したのは矢島だった。

「実は俺もできる範囲で弁当関係のリサーチをやっていました。なかなか時間ができなかったので、今意識しているランチタイムの時間帯ではありませんが、それでも弁当のメニューの傾向は店長のお話の通りです。弁当というスタイルの性質上、仕方ないかもしれませんが、だからといって同じ内容であれば後発組が不利になるのは当然です。ならばやらない方が良いのではという発想も出てきます。でも、そういう意識でやらないということであれば、今後の成長は望めません。幸いウチの場合、味に関しては評判をいただいています。ですから、他店と同じメニューであっても、食べ比べもらえれば勝てると思うので、これまで以上にこの点を前面に出していけば、と考えています」

 矢島の話が終わった時、すぐに中村が手を上げ、発言した。

「今の矢島さんのお話ですが、俺は理解できますが、お客様にとってはどこまで分かっていただけるかは不安です。というのは、やはり料理は食べるまでの時間も関係するし、持ち帰りの時に冷めたことで味も変わると思います。そこが店内で召し上がっていただく場合と違ってくると思いますので、味で勝負というだけでは競争力は弱いのでは、と思いますし、仮に味で差別化を図ろうとする場合もそれが浸透するまでには時間を要すると考えます。今回、ランチタイムに加えて弁当企画まで行なおうというのは、コロナで下がった売り上げをどうカバーするかということでしょう。味の良さが浸透するまで待つという時間的な余裕があるかどうか疑問です。だから、俺は見た目というか、他店と同じメニューはあっても、その他にランチタイムのサイドメニュー企画のように何か目玉になるものがあることが必要なのではと考えます」

 今回は矢島よりも中村のほうがより積極的な意見だったように思えるが、まだ抽象的な内容なので私の頭の中ではイメージが湧いていなかった。


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