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体調不安 3

 もし感染していたら、という思いがあったので、どうやって病院に行こうかということを考えた。歩いて行ける所なら良いのだが、どうしても電車に乗る必要がある。もちろん、タクシーという選択肢もあるが、いずれにしても一定時間、他人と一緒にいることになる。

 その場合、もし自分が罹患していたら、無関係の他人に感染させる可能性もある。だが、保健所から紹介された病院まで歩くことはできない。

 いずれかの方法を選択しなければならないことになったが、私の心境は複雑だった。これまで店では来店する客への感染防止を意識し、できることはいろいろやっていたつもりだが、今回の場合、自分が感染源になるような感じがしてとても心が重くなったのだ。だから、いっそ病院に行かない、という選択肢も頭によぎったが、それではもし感染していた場合、身近な人にうつしてしまうかもしれない。

 私の足は店を出て駅のほうに向かっていたが、歩きながら病院までの交通手段について悩んでいた。同じことの繰り返しが頭の中で起こっていたが、タクシーだと一定時間、密閉空間にドライバーの人と一緒にいることになるため、そのほうが感染リスクが高くなるのではと考え、電車で行くことにした。

 ただ、そこでも周囲の人にできる限り迷惑をかけないようにと思い、扉が開くたびに一旦外に出て、発車ギリギリに乗り込むということを繰り返した。私なりに考えたリスク軽減の方法だったが、これがどういう効果を生むかは分からない。でも、素人なりに知恵を絞り、何とか病院までたどり着こうという工夫をしたつもりだ。

 20分ほどで最寄りの駅につき、そこからは歩いて病院に向かった。

 店にいる時には気が張っていたためか、熱があっても疲労感はあまり感じていなかったが、もしものことを考えると、だんだん心身ともに重くなってくる。だから、本当はここでタクシーに乗りたい気持ちになったが、それでは電車に乗った意味が無くなる。病院までは歩けない距離ではないので、スマホのナビを見ながら病院まで歩いた。

 その途中、やはりもしもの時のことが頭をよぎっていた。テレビでは感染者の症状の急変の話などがよく言われていたので、そうなった場合、残された家族やスタッフ、店のことなどが限りなく心配になったのだ。

 もちろん、自分自身のことも心配ではあるが、極論を言えば死んだ後は何もできない。その時まで時間があればいろいろ残せることもあるだろうが、もしコロナに罹患した場合、入院中は家族との面会もできないと聞いている。ならば、その後のことで伝えておくべきことも残せないではないか、そうなるとみんなの生活は、といったことなどを何度も考えてしまうのだ。

 スマホの情報によると、病院までは徒歩10分程度となっている。だが、自分の心の中ではこの10分がとてつもなく長い時間に思われ、気持ちがだんだん沈んでいった。おそらく、周囲から客観的に見ていたら、背中が曲がり、気力の無さがはっきり分かっただろう。

 これまでは風邪でちょっと熱があるくらいでは気力で吹き飛ばしていた自分がいたが、今回はそういう気分にはなれなかった。


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