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ギックリ腰 10

 奥田の手はさらに上方に進んでいったが、今度は裏膝に対する施術だった。

 受けている立場からも今日はいつもよりも張っているような感じがしていたが、奥田からも同じようなことを言われた。その上で裏膝の真ん中付近を押されたが、ここも今日刺激を感じた経穴と同じような刺激を感じた。ここでも気になったので質問した。奥田はそれに対して嫌な顔一つせず、きちんと答えてくれた。

「ここは委中(いちゅう)というツボですが、裏膝は全体的に腰の調子と関係が深く、中にはここを緩めるだけで可動域が好転することがあるんですよ。委中というツボは裏膝の真ん中にあるんですが、その左右の端にもそれぞれツボがあり、一緒に施術するとより緩みやすく、だから今、全体的にやったんです」

 奥田はそう言いながら、再度、最初に押された時に痛みを感じたところを押圧したが、さっきよりもさらに痛みは軽減していた。

「先生、さっきよりももっと痛みが軽くなっています」

 私はその変化に嬉しくなり、今回最も大きな声で言った。その言葉には美津子も驚いていたが、決してリップサービスしているわけではないということは分かっているようで、口元も緩んでいた。

「良かったわね、あなた。先生、これで良くなったんですか?」

 さっきと違う私の様子に期待を持ったようだが、そういう訳ではない。奥田はこれから本丸の腰の施術に入るということを言い、立ち位置を少し移動し、私の腰のちょうど真横付近に立った。

「雨宮さん、これから腰の調整に入りますね。さっき何度か確認したように、もうこの部位は多少動かしてもお越しになった時のような痛みはないはずです。だから、緊張せずに大丈夫ですよ」

 奥田はそう言うと、再度骨盤や腰椎付近を触診し、骨格の状態と共にその付近の緊張度合いを確認した。

「さっきよりも柔らかくなっていますね。奥さん、さっきご主人が痛いとおっしゃっていたところを押していただけますか。通常であればこういうことをやっていただくことは無いのですが、ご夫婦でもありますし、私が確認していますので奥さんが押されても大丈夫なはずです」

 そう言われても私には素人が押すことには心配があった。当然それは美津子にもあるはずだが、信頼する奥田の言葉なのでということで、恐る恐る押してきた。最初は全く力を感じなかったが、その旨を伝えると徐々に力が強くなっていくのが感じられた。

 だが、奥田が言う通り、痛みを感じない。

「あなた、今、私はそれなりの力で押しているのよ。痛くないの?」

 そう言われても私の返事は変わらない。もちろん、押されていることは分かるし、それが軽くさするような感じではないことも分かる。奥田が押しているのならば、プロとしての加減もあるだろうが、さすがに美津子にはそういうことはできないはずだ。だからこそ、私自身、その変化には素直に驚いていた。


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