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ギックリ腰 9

 美津子はずっと横で見ていたが、確かに奥田が言うように圧を加減しているようには見えないようだ。

「あなた、先生はさっきよりも強めに押していらっしゃるわ。横から見ていてもそれは分かる。それで痛みが軽くなったってことは、少し良くなっているんじゃないの」

 周りからそう言われても、ギックリ腰の痛みを実際に感じていたのは私だ。足を少し刺激したくらいであの痛みが軽くなるなんてすぐには信じられない。でも、軽くなったのは事実である。完全ではないものの、ついさっきまでは押されて痛みを感じていたのに、という思いがあったので、まだこの時点では美津子の言葉も私を励まそうという思いからのことだろうくらいの感じだった。

 奥田の手はふくらはぎのほうに移動した。

 ここでは最初、両手で挟むような感じで押圧され、腰のほうに血液が押し流されるような感じだった。ここもそんなに緊張していたのかと思うような感じで、大変心地良い。この感覚はいつもと同じだ。これまでの経験から、この部位を施術してもらうと、脚の重さが取れることを知っている。

 その上で今度はふくらはぎの中央部分を指で押された。全体的に気持ち良い感じではあったが、そのほぼ中央部分の、ふくらはぎの筋肉がアキレス腱に変わるあたりになると、最初に京骨や金門を押された時のような刺激を感じた。ただ、その強さは最初の場合よりは弱かった。私はそのことを再び奥田に訊ねた。

「ここは承山(しょうざん)と言って、やはり腰痛の名穴の一つなんです。腰が悪い人の場合、このツボもさっきの足のツボ同様、刺激を感じる方がいらっしゃいます。雨宮さんの場合、今日は明確に腰のトラブルを抱えていらっしゃるわけですから、こういったツボは同じように何かしらの刺激を感じられると思いますよ」

 奥田は私が何かを感じたり、質問をしたりすると丁寧に説明してくれる。こういうところが私には有り難く、また信頼のベースになっている。だからこそ、これまで不定期ながらも通い続け、そして今もお世話になっているわけで、今回のように急性の劇症のトラブルの時には頼ってしまう。不安でたまらない時、優しい施術と共に明確な説明を受けることで、心身ともに安心できる。

 この承山という経穴も膀胱経上にあるということを聞いたが、東洋医学で言う経絡上に何か問題がある場合、原穴や郄穴以外にも反応が現れるところがあり、そうなればそこも含めてきちんと対応しなければ好転しない、ということを説明された。そしてそれはマニュアルで示されるものではなく、各人によって異なるので、こういうところは施術しながら確認していくことが大切ということだった。もちろん、基本原則はあるけれど、それを身体の仕組みを念頭にいろいろ応用を利かせることが大切とのことだった。

 今日の施術はもちろん私のギックリ腰の好転が目的だけど、実際に施術を受けながらでも説明を受けることで、整体について勉強しているような気持になっていた。

 それは美津子も同じようであり、後から尋ねてみると、奥田の説明と施術を観ていると学校で学んでいるような感じだったということだった。


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