ベッドにうつ伏せになると、奥田は触診を行なった。
「雨宮さん、ここは痛みますか?」
奥田は腰のある一点を軽く押した。ほんの軽くということは分かるが、痛みはしっかり感じる。
「そこ、痛いです」
加減してあるけれど、これまで施術してもらった時に感じていた心地良さは無い。ギックリ腰だから仕方ないだろうと思っていた。今まで奥田の施術では気持ち良かったという思いがあったが、今日はちょっと覚悟が必要かも、という思いが出てきた。
そう思うと、何となく腰付近に力が入りそうだが、その後腰に対するアプローチは無く、施術は足のほうからスタートした。
腰が痛いのに、何故足からなのか私には分からなかった。普段通っている時も足のほうからの施術が多いが、それは私が仕事で立っていることが多いからだろうと勝手に思っていた。でも、今回は明確に腰が痛いわけだから、てっきりスタートは患部からだろうと思っていたことが違ったのだ。
「先生、痛いのは腰なんですが・・・」
私のいつもの同じような感じでスタートしたことにいささか不安を覚え、つい尋ねてしまった。普段のような場合はともかく、今回の場合は日常生活もままならないくらいの激痛があり、歩く時も支えが必要なくらいだ。奥田の実力は理解しているつもりだが、これで回復するのだろうかという思いがあったのだ。
「大丈夫ですよ。今、私が押しているところはこれまでお越しになっていた時にも使っていましたが、その時とは感じが違うでしょう」
奥田は京骨(けいこつ)という経穴を押していたが、そう言われてみれば確かに違う。これまでは単に気持ち良かっただけだが、その時よりも刺激を強く感じる。ただ、それは痛いということではない。刺激そのものの圧として感じているのだ。
「先生、ちょっと強めに押しているんですか?」
私は言われて気付いて刺激の違いについて質問した。
しかし、奥田それを否定した。
「いえいえ、いつもと同じというより、逆に弱めですよ。でも、今は雨宮さんの身体の状態でそう感じているだけです。このツボは膀胱経の原穴ですが、この経絡に異常がある場合、診断点として活用できるし、同時に治療点としても用います。効果を出すにはいたずらに圧をかければ良いというものではなく、適切な加減が必要ですし、それも徐々に変化させていきます。もう少ししたら、さっき雨宮さんが痛いとおっしゃっていた腰の場所をまた押してみますので、その時の感想を聞かせてください」
奥田はそう言うと京骨を含む足の小指からを丁寧に押圧していった。そこから少し外れたところに金門(きんもん)という経穴があるが、ここも押してもらうと京骨と同じような感覚があった。奥田に訊ねると、そこは膀胱経の郄穴(げきけつ)で、急性のトラブルに効果的な経穴だという。今回のトラブルの場合、まさしく急性のことなので、だからこそ京骨と同じような感じなのだろう、と素人ながら考えていた。
一通り足の調整が終わったところで、先ほど話していた通り、奥田の手が先ほど痛みを訴えた腰のところを押した。
「どうですか? 痛みますか?」
「少し痛いですが、さっきよりは痛くありません。弱く押しています?」
私は奥田が押し方を加減しているのではと思った。しかし、返事は逆にさっきよりも強めに押しているとのことだった。
「あなた、痛みが軽くなったの?」
近くで施術の様子を見ていた美津子が私に言った。
「うん、さっきと違う」