「……俺に攻撃を当てただと……?」
「はっ……アンタ強いけど、技術が拙いね」
私が片手でかかってこい、とばかりに手招きをするとウラカーンの赤い瞳と同期するように、赤く光る傷跡もまた輝きを増す。
その輝きに同調するかのように私の周囲を緩やかに風が渦を巻いていくのがわかる……この風は危険だ、本能的に私は超加速を使ってその場を一気に離脱する。
間髪を容れずそれまで私がいた地面が風とともにズタズタに切り裂かれ土煙を巻き上げる……ウラカーンのスキルは風を操るというのは理解できた。
最初の一撃からしてもほぼ不可視の攻撃だったしな……破壊力を優先すると、その風は渦を巻いたりして蚊し可視化されるようだが、今のように不可視の斬撃なども自由に巻き起こせるらしい。
チートすぎないか?! これ何となくで避けられている今の状況が結構おかしいだけで、この感覚がわからないヒーローや一般人はなすすべもなく体を切り刻まれるってことだ。
「……今のを避けるか……やるな」
「あ、あぶね……!」
「こちらの手札を読んでくるのは
ウラカーンの発した先代……これはおそらく先代シルバーライトニングのことだろうが、彼女と戦ったってことはウラカーンの中身はそれなりに高齢なのかもしれない。
だが……今のシルバーライトニングは私だ、それをこの最悪のヴィランへと捩じ込んでやる……! 私は超加速を使って一気に前に出る。
スキルの瞬間的な停止と再開を繰り返して、稲妻のような軌跡を辿っていく私に対して、ウラカーンは腕を大きく振って小型の竜巻を撃ち放っていく。
だが、自然に巻き起こる竜巻の平均速度は三六キロメートル程度と言われ、スキルによって巻き起こした竜巻はそれなりに速度が出ているものの私の超加速についていけるほどではない。
「うおおおおおッ!」
「こいつ……
「オラあああッ!」
ズドンッ! という轟音と共に防御姿勢をとったウラカーンの腕に私の拳がめり込む……ミシミシという音を立ててせめぎ合う私とヴィランの力比べ。
次第に押し込まれるのを感じ取ったのか、ウラカーンは片手で風を巻き起こすと突風を使って私を後方へと押し返していく。
この突風は単に私を押し返すだけの衝撃波のようだが、殺傷能力が低い代わりに凄まじい圧力が加わるようになっていたらしく私はなすすべなく大きく跳ね飛ばされる。
ウラカーンはそれをみると、スキルを消して一気に前へと駆け出す……空中にいる間に一撃を叩き込もうというハラか。
私は空中でくるりと姿勢を制御すると地面に着地するのと同時に超加速で前に出る……次の瞬間、ドンッ! という衝撃と共にウラカーンと私はがっぷり四つ、プロレスでいうところのフィンガーロックの態勢をとった。
「うおおおおおっ!」
「なんて馬鹿力を……負けるかあああッ!」
ウラカーンは戦闘技術こそ私よりも劣るが、体格や筋力において私と互角以上に張り合えるだけのパワーを有していた。
ミシミシと腕の筋肉が音を立てて軋む……技術よりも筋力や肉体の強固さを優先したヴィランの力は、ほんの少しだけ私よりも強いかもしれない。
だが……私はあえて額を相手の額へと叩きつける、ゴガアッ! という衝撃音と共に視界に星が舞う……だがウラカーンは歯を食いしばったままその衝撃に耐えると、お返しとばかりに自らの額を私へと叩きつけた。
バキイイッ! という鈍い音と共に視界に血が舞う……皮膚が破れてお互いの額から血液が一筋流れ出すが、私もウラカーンもお構いなしとばかりにお互いの額を叩きつけあった。
「うがああっ!」
「この……クソ女ッ!」
ボタボタと地面に血がこぼれ落ちる……激しい痛みと視界のあちこちにキラキラしたものが舞っている気がするが、私とウラカーンは力比べをやめない。
ヴィランの真紅に光る瞳がギラリとした殺気を帯びたのを見て、私の背中にぞくっとした寒気が走った……まずい、私は一瞬力を抜いて相手の態勢を崩すと地面に倒れ込むようにして相手の腹部に思い切り前蹴りを叩きつけた。
ドンッ! という音と共にウラカーンの体が強制的に空中へと打ち上がる……だが、空は彼の主戦場なのだろう、不自然なほどに減速したヴィランは空中に浮いたままの体勢で両手を前に構える。
まずい……あいつ何かしようとしている……私は血に濡れた視界のまま飛び起きると一気に走り出す。
「くらえええッ!」
「うわああッ!」
ウラカーンをの手から渦を巻く風が打ち出される……それは空気を切り裂くように進むと、先ほどまで私がいた地面をまるで豆腐のように砕いていく。
走って地上を逃げていく私に向かって、まるで野生動物の狩猟でも行っているかのようにウラカーンは次々とスキルを撃ち放つ。
だが、視認してからスキルを撃ち放っているため、超加速を使うまでもなく彼の攻撃は空振りを続けていく……それに気がついたのか、ウラカーンはゆっくりと地上へと降り立つと、手のひらを動かしてバキバキという音を立てた。
「忌々しい女だ……先代の技を使えるとは」
「あんた先代のシルバーライトニングにボコられたやつ?」
「グハハッ! あの時は俺がチンピラ以下だった頃だ、今ならアイツに負ける気はしないな」
ウラカーンはそう叫ぶと、自らを起点に周囲に竜巻を巻き起こす……土埃が舞い、視界がどんどん狭くなっていく……そして私の体が急にウラカーンの方へと引き寄せられていく。
まずい、こいつ風を利用して距離を潰しにかかっている……私は地面を蹴ってその竜巻から逃れようとするが、そうはさせないとばかりにヴィランは竜巻の強度を一気に上げる。
ズルズルと地面を滑りながら次第にウラカーンへと引き寄せられる私……だめだ、これは走ったりするだけじゃ逃げきれない!
そう思った私はむしろウラカーンに向かって超加速で一気に跳んでみせる……そんな行動をとるとは思っても見なかったのだろう、彼はスキルを解除することを戸惑った。
「な……自ら飛び込むだと?」
「うおおおおおっ!」
慌ててスキルを解除したウラカーンだが、すでに時おそし……超加速で一気に距離を潰した私が振り抜く拳が彼の鳩尾へとブチ込まれる。
ズドオオオンッ! という鈍く思い音と共にウラカーンは悶絶して身体をくの字に曲げる……返す刀で私はもう片方の拳を斜め上からの打ち下ろしの形で彼の顔面へと叩き込んだ。
バキイイッ! という快音と共にウラカーンへと叩き込まれた打撃……しかしその一撃にヴィランは耐えてのける……ギラリと光った瞳が私を見るとともにお返しとばかりに彼の拳が私の顎を打ち上げた。
ガンッ! という音を立てて視界に再び火花が散る……だが、先ほどの二発が彼の拳から威力を削っていたのだろう、私は意識を飛ばすことなくウラカーンへと視線を向けた。
散々打撃を受ける訓練をしてきて、無意識のうちに自ら首や身体を動かして打撃を軽減する技術を、イチローさんに叩き込まれているのだ。
慣れないうちは一撃でノックアウトされたものだが、染みついた技術というのは本能的に危険を察知して繰り出せるものらしい。
私が拳を振りかぶるのと同時に、ウラカーンも憤怒の形相で拳を構えて打ち出した。
「このクソヒーローが……舐めるなああああッ!」