翌日。休み時間になると、俺たちは廊下に集まった。やはり、昨日の出来事が頭から離れない。不良グループが孝輝の事故に関わっているのは間違いないと思っていたが、どうにも違和感が拭えなかった。
「まずは、あの不良たちが本当にブレーキワイヤーを切ったのか調べないとね」
世羅が真剣な表情で言う。
「うん。でも……あいつらがやったのって本当にそれだけなのかな」
そう言いながら、俺はふと思い出した。この間、孝輝が「レストランの客足が減っている」とぼやいていたことを。それを聞いたときは、ただの景気の問題かと思っていたが……今思えば、その言葉が気にかかる。
「そういえば……孝輝の家族って、店の悪評とか気にしていないのかな?」
俺がそう口にすると、凪沙が少し考えるように眉を寄せた。
「それなりに、気にしていると思うよ。この前、バイト中に孝輝君のお父さんが言っていたんだけど……時々、ひどいレビューを書く人がいるんだって」
「そっか……」
俺は小さく頷くと、スマホを取り出しSNSを開いた。
「確認してみよう。SNSで、何か悪いことを書かれているかもしれない」
恐る恐るレストランの名前を検索すると──嫌な予感が的中した。
『最悪。料理に虫が入ってた』
『接客態度がひどすぎる』
『もう二度と行かない』
見れば、明らかに根拠のない悪評が拡散されている。しかも、あろうことかその中には料理に虫が混入している写真が添付されたものまであった。
「え……? これ、つい最近の投稿じゃない? 全然、知らなかった」
「本当だ……! 私も、アカウントは持っているけどバイトで変なお客さんに絡まれて以来あまりやっていなかったからなぁ……全然気づかなかったよ」
凪沙と世羅は、心無い投稿を見て唖然としている。
「でも、料理に虫が入っていたって……これ、本当なのかな?」
「いや……これは明らかに捏造だよ。ほら、画像をよく見て。虫の影だけが不自然に濃い」
俺は画像を拡大すると、編集ソフトで加工された痕跡を指摘した。
……間違いない。これは、『洋食レストラン“Heart Reef”』を狙った計画的な嫌がらせだ。
「そういえば……前に孝輝君が言っていたよね? 突然、レストランのスタッフが全員辞めちゃったって」
世羅の言葉に、俺はハッとした。だからこそ、孝輝の両親は俺たちにアルバイトを頼んだのだ。今考えると、その頃から悪評を拡散されていたのかもしれない。
「それ……もしかしたら、この嫌がらせと関係あるかもな」
そう言いながら、俺はふと疑問に思った。
「孝輝の家族は、まだ警察に被害届を出してないのかな?」
「うん、多分……」
凪沙が俯きながら答えた。
「証拠がないから、被害届を出しても『民事で対応してください』って言われるんじゃないかと思って動けないんじゃないかな。逆に騒ぎ立てたら、レストランの評判がもっと悪くなるかもしれないし。昔、理不尽なひどいレビューを書かれた時も結局何もできなかったみたいだよ」
「そっか……でも、決定的な証拠が見つかれば、きっと動けるはずだ」
俺たちは、更なる証拠を探すことにした。三人で話し合っていると、紫音と縁士がこちらに近づいてきた。紫音は真剣な表情を浮かべ、縁士も神妙な顔をしていた。
「あの……もしかして、雲雀君の家のレストランの件で話し合っているんですか?」
「え? ああ、うん……そうだけど、なんで小日向さんが知っているの?」
「実は、クラスメイトから報告がありまして。雲雀君と仲が良い由井君たちなら、何かご存知なのではないかと思い、こうして聞きに来たんです」
どうやら、他にもこの投稿に気づいていたクラスメイトがいたようだ。
「それで……もし迷惑でなければ、私も協力したいんです。このような悪質な嫌がらせを放っておくわけにはいきませんし」
紫音が真剣な表情で言った。
「僕も、手伝うよ。学級委員としても、クラスメイトとしてもこんな陰湿な嫌がらせを見過ごすことなんて出来ないからね」
縁士も同意するように頷いた。二人の真剣な言葉に背中を押されるように、俺たちは改めて決意を固めた。こうして、みんなで力を合わせて犯人探しを始めることになった。