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第二十一話 神苑の瑠璃 ―紅の大地― Ⅱ

 数時間彼らは滑空を続け小さな山の頂上付近に降り立つ。

 そこから先に広がる景色に四人は驚いた、まだ先は長く続いているがカルナックの言う通りの地形が広がっている。

 人が立ち寄れない天然の要塞とはよく言ったものだ、それは森だった。

 森がしばらく続き岩石によって形成されるドーム型の洞窟らしき物。それがはるか遠くに見えている。

 思わず唾を飲み込むレイ、想像していた場所とかけ離れていることにその時ようやく気付いた。この場所を発見した人も凄いがそれ以上にあそこへ挑戦した旅人達が数多くいる事実に驚愕する。

 人の探求心とはこんな場所でも強く働くものなのだろうかと。しばし彼らは言葉を発することが出来ずにいた。


 スカイワーズによって消耗したエーテルを回復させるついでに、それぞれの蓄積した疲れを癒すべく今日はこの場でキャンプを張ることになった。明朝彼らはまたスカイワーズで、この山を下り森の三分の一あたりに着地できればあとは突き進むだけ、小さな点に見えた洞窟だが然程の距離が無いとカルナックが言う。

 やはり到着時間は翌日の正午を少し回った辺りだろう。それまでに今日の疲れを癒すことに五人は専念する。

 雪は相変わらず降り続いている、これで足場はさらに悪化するだろうと予想される。しかし彼らの身体能力を生かせばそこまで難しい事ではないだろう。並の人間と一緒に考える方が的外れである。その日彼らは明日の積雪量なんて会話にすらしなかった。


 四日目、最初に目を覚ましたのはカルナックだった。

 時刻はまだ早朝の五時頃、目覚めるにはあまりにも早い時間だった。原因は周囲の異変である、いち早く人の気配を察知したカルナックは音を出すことなくゆっくりと起き上がり傍に置いてある刀を手にする。

 冬のこの時間あたりはまだ真っ暗でしかも周囲に生えている木々が視界をさらに遮る。


 その中足音が一つ、二つ――全部で四つ確認できた。テントの隙間から外を除くが周囲に人の影は無い、だが確実に誰かがいる。最初レイ達四人の誰かが起きたのだと思ったが寝息は未だ四つ聞こえる。となれば第三者の存在を疑うのが必然である。

 最初にカルナックは目にエーテルを集中させて視界の明度を上げる。そこに映りこんできたのはショットパーソルを構えてこちらへゆっくりと近づいてくる帝国兵が四名、位置を確認するとカルナックは速やかに行動に出る。

 テントから勢いよく出ると一番前にいる帝国兵の首を刀で飛ばした、この兵士は幸せだったかもしれない、これから起きる殺戮を見ることも無く恐怖を感じることも無く死ねたのだから。


 そこからは残りの三人に恐怖が襲い掛かる。

 突然倒れた先頭の兵士を見た三人はショットパーソルを構える、だがその暗闇の中カルナックの姿をとらえることは出来ない、二人目の胴体が二つに分かれた。

 残りの二人は悲鳴を上げる、突然目の前で起きた事に恐怖を覚えた。

 敵の姿は視認できない、何処から襲ってくるか分からない現状がさらなる恐怖を招く。

 三人目の体が真っ二つに左右に分かれる。血しぶきが最後の一人に掛かり恐怖のあまりその場にしりもちを付いた。錯乱した兵士は元来た道へ引き返そうとするがカルナックがそれを許さなかった。

 膝下を切り落とし移動手段を奪う、次に両腕を根元から切り離し、最後に自分の姿を見せる。兵士にはこう映ったであろう。鬼が居ると。

 あまりの恐怖にアドレナリンが大量分泌され痛みはおそらく感じていない、だが自分の両足両腕がどうなっているかぐらいは確認できる。力を入れようとするが無いものに力など入ることも無く、その場でジタバタと暴れるしかできなかった。


「御機嫌よう、そして――」


 小さく呟きながらその兵士の首を跳ね飛ばした。絶命した兵士四人を眼下に見下ろし。


「御機嫌よう」


 静かに納刀した。




 カルナックが帝国兵士を殲滅した二時間後、ようやくレイ達四人は起きてきた。

 既に朝食の準備を整えているカルナックの姿を見て最初にレイが驚く、続いてアデルが驚きガズルとギズーは驚愕した。

 普段料理なんてした事の無いカルナックが、自分達が起きるより先に出てきて朝食の支度をしているのだ。驚くなという方が無理がある。

 もちろんカルナック自身は彼らの為にと起きてきたわけではない。


 二時間前の襲撃で完全に目が覚めてしまったから仕方なく時間を潰すためにも準備をしていた。だがそれは彼等四人は知る由もない。

 もちろん襲撃があったこともまだ告げていない。どうせすぐそこで起きた事だ、いやでも目に付くだろう。その時に説明すれば問題ないとカルナックは思っているようだ。


 いよいよこの日彼らは封印された洞窟へと到着するだろう、しかしカルナックは近づくにつれて警戒している。

 それもそのはず、早朝の襲撃があったことを考えればすでに帝国は洞窟へと到着しているだろう。封印を施しているが相手には封印法術に長けているシトラが付いている。

 時間を掛ければ術者を何十と集めれば解除できなくはないが相手はシトラだ、その道の専門でもある彼女であれば三十分と掛からず解いてしまう可能性もある。だがそれ以上に襲撃だ、この先に帝国が何人も張っているだろうと予想される。シトラからの通達でこちらを警戒している事は間違いない。


「この先に見えるあのひと際大きなドーム型の洞窟が封印の洞窟です、別名『紅の大地』」


 走りながらカルナックが通信機を通して四人に伝える、紅の大地という名前の割には通常の岩石で出来た洞窟のように見える。それが彼等四人には違和感に感じた。灰色の岩石で構成されているドーム型の洞窟、何処から見ても赤く染まっているようには見えない。


「あの洞窟は何階層かに分かれています、その最深部こそが名前の由縁だそうです。私も一度捜索に出向いた時に拝見しましたが名前の通りでした」


 一度だけ見た景色を言葉にして伝えるが余りにも抽象的でパッとイメージがし難い。


「階層って、あの先は海ですよね? まさか海底洞窟ですか?」

「その通りですレイ君、流石ですね~」


 そんな会話が耳元から聞こえてくる、先も述べたがこの通信装置は本当に素晴らしいものだった。離れていてもリアルタイムで伝達が行えるうえ作戦を相手に聞こえない程小さな声でも装着しているものには聞こえているほどの精度だ。


 一体いくらしたのだろうか。


 そうこうしている内に目の前に帝国兵士が数名歩いている、まだこちらには気が付いていない様子だ。先行しているレイとアデルが同時に一番近い二人に切り掛かる、お互い一撃必殺を心掛けて自身の刃を振るう。

 その後方、すれ違いざまにガズルとギズーが飛び込んだ。

 先日の戦闘で見せた重力爆弾を即座に作り出し敵中央へと放つガズル。すかさずギズーが譲り受けた銃の威力を確かめるべく背中から取り出して初弾を装填する。今彼が込めた弾丸はカルナックによって生成されたエーテル弾。

 法術が一切使えないギズーにとっては有り難い代物だ。

 グリップの前方に付いてるレバーを回転させながらくるりと回し装填し狙いをつけてトリガーを引く。轟音と共に発射された弾丸はまっすぐに敵中央、重力爆弾によって一か所に集められた帝国兵へと飛んでいく。着弾、ここでこの弾丸の真価が発揮される。

 着弾するのと同時に封じ込められたエーテルが起爆し周囲のエレメントの中で一番強いものを巻き込む。この場合は氷のエレメントが豊富にあるため着弾したところから半径五メートルを一瞬にして氷漬けにする。思わずギズーは声を荒げた。


「ひゃー! たまんねぇなコレ!」


 しかし今の轟音で此方に注意が引き寄せらえてしまう、だがそれも彼等五人として有り難い話なのである。バラバラに狩るよりは一度に複数を同時に狩った方が効率は良い。並の帝国兵士では彼らに傷一つつけることは出来ないだろう。雑兵だらけのこの戦場で彼等は文字通り蹂躙する。

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