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第二十六話 あの山の頂きから Ⅲ

「この反応、一体どこから?」

「位置までは特定できないな、もう少し反応が強くなればわかるんだろうけどな」


 もう一度二人は周囲を見渡す、だが先ほどと特に変わりはなく何かが起きている様子は見受けられない。気のせいとは流すことが出来ない程の反応に二人は次第に焦り始める。もしもこれが帝国側が仕掛けてきた事であれば彼等にとって大きな脅威になることは間違いないからである。そうこうしているうちに信号弾を見たギズーとガズルもメルの墓の前に走ってきた。


「どうした!」


 ガズルが叫びながら辺りを見渡す、しかし彼もまた何か異変が起きてるとは確認できなかった。


「突然異常なエーテル反応が出たんだ、僕とアデルでそれの発生源を特定しようとしてるんだけどその場所が分からない。もう少し大きくなれば分かるんだけ――」


 そこでレイの言葉が止まった、アデルがレイの表情を見た時それは姿を現した。彼らの上空だ、二人は同時に空を見上げるとそこには真っ黒な球体が徐々に形を大きく変えて現れる。


「ガズル何した!?」

「俺じゃねぇ!」


 ギズーが真っ先にガズルを疑ったのは言うまでもない、その球体は彼が作り出す重力球によく似ているものだったからだ。しかしガズルは真っ先にそれを否定した。レイとアデルもこれがガズルの重力球でないことを直ぐに理解する、彼が放つ重力球とは全く異質なエーテルだったからだ。目視で確認するに球体の大きさは半径五メートルほどの大きさで彼等四人のはるか上空に陣取っているかのように見えた。


「何だアレ」


 ガズルは持っていた双眼鏡でその真っ黒な球体を見た、するとその球体の中心部分にどこかの風景だろうか? 見た事の無い建造物らしきものが幾つか見える、小さくて分かりづらいが双眼鏡でようやくわかる程度にしか見えない。


「何か、出てくるぞ?」


 双眼鏡越しにソレを見ていたガズルが続いて言葉を出す、その言葉の直後、何かがゆっくりと球体から出てくるのがガズルの目にははっきりと映っていた。まるで人間の様な姿である、次第にそれはズルズルと球体から生み出されるように出てくるとゆっくりと落下をはじめ、直ぐに止まった。そう、空中に滞空してるように止まった。


「人だ、人が出てくるぞ」


 一人目が完全に出てきた、続いて二人目も同じように出てくる。三人目の足だろうか?それが見えた瞬間一人目の人影は一気に落下してきた。


「え、何アレ……何だぁ!?」


 レイの目にもそれははっきりと映っていた、落下してくる速度は加速し見る見るうちに崖の方に落ちていくのが分かった。そこで彼の体は反射的に動いたのだろう、すぐさま走り出すと崖ギリギリの処で両手を広げて受け止める体制を取った。続いて二人目も同じようにして落下を始めた。


「アデル、そっちは任せた!」

「お、おう?」


 呼ばれたアデルは一瞬だけ戸惑ったが、すぐさま彼も走り出してレイと同じ体制を取った。今度はメルの墓石の少し先の処が落下地点と予想される。


「三人目も落ちてくるぞ、俺が行く!」


 持っていた双眼鏡をギズーに渡すとガズルも走り出した。そしてアデルのすぐ横でまたも同じ体制を取って受け止める準備を整える。最初に落ちてきた人間を崖ギリギリの処で受け止めたレイ、落下衝撃を防ぐため法術を使って風を操り三人の上空に簡単な上昇気流を作り出した、それに落ちて来た人間が一度ふわりと浮かぶび、速度を緩めて腕の中に落ちてきた。


「……女の子?」


 レイが受け止めたのは小さな女の子だった。幼い顔立ちから察するにきっと自分と同じぐらいの年齢だろう。ピンク色の髪の毛をしている。気を失っているのか意識はなかった。


「こっちは餓鬼だ」


 アデルが受け止めたのは黒髪の少年だった、赤いジャンパーを着ていて同じく気を失っている。そしてガズルが受け止めたのも同じく少年だった、こちらは緑色のジャンパーを着ている。

 黒い球体がしだい収縮して小さくなり、最後には完全に姿を消した。落ちてきたのは三人の少年少女、いずれも意識を失っていてぐったりとしているが、外傷は特になかった。レイ達はそれぞれ顔を見合わせてこの状況を分析する。突如現れた黒い物体、そこから出てきた三人の少年少女。突然の事で四人は軽いパニックになる。


「どうなってんだこれ」


 少女を抱きかかえたままどうしていいのか分からずにレイが呟く、アデルとガズルもまた訳が分からずに少年達を抱きかかえている。この三人が一体何者なのか、どうしてあの球体から出てきたのか。何も分からないまま彼等はメルが眠る山頂に立ち尽くしていた。それが結果として彼らに不幸が降りかかる。


「え?」「あ?」「は?」


 崖のほぼ先端に位置していたレイの足元が急に崩れる、正しく言えばメルの墓石から少し先が一斉に崩れだした。一度に複数人の体重がのしかかり、さらに落下時の衝撃を緩和出来ていたが三人の子供の体重が掛かり重量の許容を超えてしまっていた。

 レイ達三人はそのまま崩れた勢いで崖下へと落ちていく、それぞれが大声を出しながら崖下の森へと落下していった。それを後ろで見ていたギズーは恐る恐る覗き込み、


「あー……面倒臭ぇな」


 懐から煙草を取り出して火をつけ、三人が落ちていくのを静かに見守った。

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