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第二十七話 招かれざる客 Ⅰ

 崖から落ちたレイ達はそのまま勢いよく下の森へと落ちた、その先が森で運が良かったのは言うまでもない。木の枝がクッションの役割を果たし落下時の衝撃を押さえてくれていた。レイは落下時の衝撃でも抱きかかえた少女を放さずにいたが、残りのアデルとガズルは落下時に放してしまった。結果少年達は何本かの枝にぶつかり、最後には顔から地面に落下した。


「あ、やべ……」


 エルメアを固定していたベルトが枝に引っかかり宙にぶら下がっているアデルが自分の真下で首から上が地面に埋もれている少年をみて申し訳なさそうに言った。同じくガズルに抱きかかえられていた少年も赤いジャンパーの少年と同じように顔が地面に埋まっていた。足が枝と枝に挟まって動けないでいるガズルもまた宙にぶら下がる状態でプラプラと揺れている。


「何やってんだお前ら」


 そこにギズーが降りてきた、剣を崖に何度か突き刺しながら落下速度を殺しながらこちらへ降りてきたのだ。地面に着地すると首を地面に突っ込んでいる少年二人を残念なものを見る目で見つめる。そしてため息をついてガズルを挟んでいる枝をシフトパーソルで撃ち抜いた。さかさまで落下するガズルだったが途中の枝を掴んで体制を立て直し、そして着地する。

 そして埋まっている二人の足をそれぞれ掴んで勢いよく地面から引っこ抜いた。


「お? お前ら大丈夫か?」


 引っこ抜かれた二人はそれぞれ落下した衝撃からか意識を取り戻していた、だが目が覚めた時真っ暗な空間と酸素の無い世界で苦しんでいたのだろう。意識はあるもののぼんやりとしている感じだった。


「あ……ありがとう、ございます」


 赤いジャンパーの少年が何とか言葉を発することが出来た。隣の少年は未だ苦しんでいる様子だ。ゆっくりと二人の体を地面に降ろして一息つかせる。二人は咽ながらも辺りを見渡して状況を判断しようと必死になっている。この様子であれば特別何か深刻なダメージがあるわけでもなさそうだ。


「おーい、俺も降ろしてくれよギズー」

「ベルトを撃ち抜けってのか? そんなことするぐらいならテメェでその枝どうにかしろ」


 アデルが木の上からギズーに助けを求めた。が、面倒そうにその申し出を却下したギズー、断られたアデルも「それもそうだ」と頷いて剣を抜くと枝を切り落とした。しかし彼の場合その下に枝は無く、体の向きを変える前に正面から地面へと落下して顔面を強打する。それも固い土の場所だったのだろう、落ちた場所はへこみもせずクッションの役割もせず落下時の衝撃をそのままアデルへと返した。落ちた瞬間激痛と共に声にならない叫び声を出して地面でジタバタしていた。


「あの、どなたか存じませんが助けて頂いて本当に有難うございます」


 赤いジャンパーの少年がやっと落ち着いて感謝の言葉を述べた、そして隣で未だにパニックになってる少年の背中を叩いて落ち着かせる。そんな二人の後ろにレイがやっと降りてきて抱きかかえていた少女を一度ガズルに渡す、自分のジャンパーを脱いでそれを少女の体にかぶせてもう一度抱きかかえる。


「君達、何で空から落ちてきたんだ?」


 未だに意識を失っている少女を抱きかかえたままレイは少年二人に問いかける、その言葉に赤いジャンパーの少年は振り向き抱きかかえられている少女を見て声を上げた。


「姉さん!」

「姉さん? この子君のお姉さんなのかい?」


 気を失っている少女の顔をもう一度レイが見てそう答えた、彼女もまた意識を失っているだけで外傷は特にみられない。その事を少年に伝えると安堵した様子で胸を下した、ホッとした少年はもう一度レイの顔を見て礼を言う。


「はい、僕の姉です。――あの、助けて頂いて本当に有難う御座います!」

「そうか、とりあえず怪我が無くてよかったよ。此処じゃ何だ、僕達の拠点に行こうか。そこならお医者さんも居るしゆっくり休めるだろう」


 レイがもう一度抱きかかえている女性に目線を落として提案した、彼らが一体何者でどこから来たのか、また何故空から降ってきたのか。考えれば考える程謎は深まるばかりで聞きたいことも山ほどある状況ではあった。しかし、この女性は未だに目を覚ましていない。その事を気遣ってかレイは自分たちのアジトへと一度戻ることを提案したのだ。だがそれにギズーが噛みつく。


「待てよレイ、こんなどこの馬の骨とも分からねぇ奴ら連れてくってのかよ」

「そうだよギズー、これがどんな状況かは分からないけど一度アジトに戻ろう。色々と聞きたいこともあるし何より治療が優先じゃないか?」

「……このお人よし目。おいテメェ、せめて名前ぐらい名乗ったらどうだ?」


 レイの申し出に納得が行かないのか、はたまた見ず知らずの人間を自分たちのアジトへと案内するのを嫌ったのか不機嫌な表情で捨て吐いた、そして未だ名前を名乗らないこの少年達にイライラしていたのも確かだ。


「すみません、ボクはミラ、『ミラ・メーベ』と言います。こっちのツンツン頭は『ファリック・ベクアドルド』。それと姉の『ミト・メーベ』です、ところで……」


 赤いジャンパーの少年がそれぞれの名前を告げる、ミラは意識を取り戻してからずっとモヤモヤとしている事を告げようと口を動かし、その言葉にレイ達四人は唖然とした。


「名前は憶えているのですが……ボク達は一体何者なんでしょうか?」

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