彼らの攻撃を見ていた城壁の上の兵が叫ぶ、それと同時に再び攻城兵器が轟音と共に巨大な弾を発射する。目標は巨大な重力球、吸い込まれるようにそれ目掛けて飛び込んでいく複数の鋼鉄の弾をアデル達はしっかりと見ていた。いくらガズルの攻撃を跳ね返す装甲でも灼熱地獄の中であれば溶けてしまうだろう。そこに飛んでくる鋼鉄の弾、これらもまた吸い込まれたと同時に溶解し中の温度を上昇させる。
十数発の弾が発射されたのち、ゆっくりと重力球は解けていく。アデル達はこの時点で勝利を勝手に思い込んでいた。それが結果として彼等を絶望させる。
重力球の一部が解けだすと同時に無傷の姿で巨人の足が出現したのだ、数千度にまで達するあの灼熱地獄を難なく耐え抜き溶解することも無く外傷一つ付くことも無くそれは出てきた。
「アレを耐えるのかよっ!」
アデルが着地すると同時に
「煉瓦だって簡単に溶解させる温度だってのになんて野郎だ」
その後方でギズーもまた二人同様見上げて愚痴をこぼす、彼等三人にとって現状最大の攻撃力を誇る連携攻撃が全く通用しなかったのだ無理もない。
再び巨人が動き出した、相変わらず動きは遅いものの着実にメリアタウンへと近づいてきている。城壁の兵士達も先ほどの攻撃を見ての巨人に呆然としていた、そんな兵士の一人に突如として影が落とされた。レイだ、彼は素早くメリアタウン城壁の後方から跳躍すると軽々飛び越えてきてしまった、高さ二十メートル以上の城壁を難なく易々と。その体からは冷気が放出されはじめる。
「
右手に霊剣を構え空中で
「か……固いっ!」
その霊剣でも傷を付けることはできなかった。金属同士がぶつかる音だけが響き渡りレイははじき返されてしまう。しかしレイの攻撃はそこで止まらなかった。斬撃が通用しないことを察した彼はすぐさまエーテルを練り始める。体から大量の冷気が放出されると同時に左手には青白い冷気の塊が形成されている。
「ガズル、アデルを担いで飛べ!」
言われた通りにガズルは隣で息を切らしているアデルを担ぎ上げてギズーのいる後方へと素早く飛んだ、それを確認したレイは左手の冷気を巨人に向けて放った。
「
巨人の周りが急速に気温下降し始めた、足元から徐々に氷が形成されては焼けた金属片の温度でそれを瞬時に溶かしていく。それを数回繰り返したのち完全に氷が形成されていく。するとどうだろう、ガズルの打撃もアデルの斬撃も、はたまた数千度の熱に耐えた巨人の装甲版に亀裂は入り始めた。その亀裂は徐々に広がりを見せて体全体がつぎはぎだらけの様に装甲版すべてにヒビが入っていった。その光景をみたガズルが「なるほど」と感心する。
「ヒートショックか、レイの奴めやるな」
巨人の体を氷が覆うのに一分と掛からなかった、頭部からつま先に至るまですべてが氷漬けになりそこからひび割れた装甲版が見えている。
「こちらレイ・フォワード、支援要請パロット砲四番から七番ダイレクトサポート。目標敵中央」
無線機越しにメリアタウン指令本部へと伝達を入れた。
「”こちら本部、ダイレクトサポート了解。城壁パロット砲四番から七番打ち方用意”」
指令本部から城壁の砲台観測主へと伝達が伝わる、弾丸を大筒に装填するとクランクを回して標準を巨人へと合わせいつでも発射できる体制を整える。この間僅か五秒程度。未だ空中に浮いているレイのすぐ脇をすり抜けるような砲台もあるが構わず命令が下る。
「”打ち方はじめ!”」
その命令と共に一斉に発射された、ほぼ同時に発射された大砲からは咆哮にも似た音がメリアタウン全体に鳴り響くほどの大きさで広がる。発射時に重砲から煙が立ち上り周囲に硝煙の匂いが充満する。
四発がほぼ同時に巨人を覆う氷に着弾した、分厚い氷だったが大砲の破壊力により氷全体へと亀裂が生じた。亀裂は瞬時に広がり轟音と共に崩れ巨人の体を覆う装甲と共に破壊した。
「嘘でしょっ!?」
粉々になって破壊された装甲、その奥にはもう一枚の装甲が見える。そちらは無傷のままであった。灰色で無機質だった外装とは違ってこちらは黄金色に光る合金で出来ている。全体がやや丸く形成されていた外装は言わば鎧でこちらが本体であった。
分厚い装甲が剥がれ巨人が身軽になる、先ほどまでの遅い動きから一転素早い動きへと変わっていく。真っ先に狙われたのは目の前にいたレイだった。巨人の顔が露になると瞳の部分が赤く光りそこから光が飛んでくる。
「っ!」
とっさに霊剣でその光を防ごうと前に構えた、飛び出してきた光は霊剣に当たるとレイ共々を地面へと弾き飛ばしてしまった。あまりにも予想外の攻撃にレイは一瞬何が起きたのか理解できなかった。またそれを見ていたアデル達も同様に巨人が何をしてきたのかが分からなかった。
弾き飛ばされ地面へと吹き飛ばされてしまったレイは直ぐに起き上がると再び霊剣を構える。先ほどの二倍程度の速度でメリアタウンに近づいてくる巨人に対してもう一度同じ法術を使おうとエーテルを練る。だが巨人はそれを許しはしなかった。
先ほどと同じ光をレイ目がけて発射した、法術を唱えていたレイはその光を防ぐことも避けることも出来ないでいる。そこへガズルが飛んできてレイを蹴り飛ばした。直線状に何もなくなった光はそのまま地面へとぶつかり爆発を起こす。
「アレに当たると不味いな」
爆発の衝撃で二人とも別々の方角へ吹き飛ばされてしまった、レイは巨人の足元へと吹き飛ばされガズルはその反対方向、つまり元の場所へと吹き飛ばされてしまっていた。仰向けで倒れたレイの目に飛び込んできたのは巨人の足の裏だった。即座に起き上がると体制を崩したまま後ろへと飛ぶ。が、巨人の足が振り下ろされた時の風圧でもう一度吹き飛ばされてしまう。今度はアデル達の元へと帰ってくることになった。
「た、ただいま」
「おかえり……じゃねぇよ! どうすんだこんなの!
お道化たレイの言葉にアデルが切り返す、だが事実その通りだった。彼らが今まで戦ってきた中でも屈指の強さを誇るこの巨人、動きは速くなるし攻撃方法も変わってきている。特に目から発射されるあの光が難ありなのは言うまでもない。そうこうしている内に巨人は徐々にこちらへと近づいてきている。
「何だ?」
メリアタウン城壁まであとわずかで手が届くという処で巨人の動きが突如として止まった、すると胸部の装甲が中央から分かれて横に開いた。中に城壁に設置してある様な砲身が見える。ソレに真っ先に反応したのがギズーだった。彼の記憶の中からそれと似たような重砲を探し出すがどれもこれも一致しない。そもそも砲弾を込めるだけの大きさはある物の平べったい形状をしている。
次第に巨人はその砲身をレイ達へと向けるべく状態を傾けてきた、すると方針は赤く光り輝きだし始めた。
「やべぇのが来るぞ!」
ギズーの予感は的中した、赤く輝きだしたと思った直後先ほどレイ達を狙った光より巨大な光がレイ達に向けられて発射された。咄嗟の事で彼等は逃げることが出来なかった。
「
着弾する寸前、本当に直前のところでレイが
作り上げられた氷の防壁は光の直撃で破壊と形成を繰り返しながらなんとか耐えている状況だった。だが本来
「ヤバイ、持たないっ!」
破壊と構築を続ける氷の防壁は予想以上にレイのエーテルを消費させている、徐々に構築が甘くなり破壊される部分が多くなってきていた。それに比べ巨人が放つ光は一向に衰えることを知らない。